「着床したかどうか、早く知りたい」——体外受精の胚移植後や排卵後の時期は、期待と不安が入り混じる特別な時間です。着床は体の中で起こる小さな変化のため、その瞬間を直接知ることはできません。しかし、体に現れるサインや症状の変化、そして適切な時期に行う検査を通じて、着床したかどうかを見極めることは可能です。
この記事では、不妊治療専門医が「着床したかわかる方法」を体外受精・自然妊娠の両方の視点からわかりやすく解説します。着床出血・基礎体温・おりものの変化といった自覚症状から、最も正確な確認方法であるhCG血液検査まで、必要な情報をまとめました。
着床とはどういう状態か(受精〜着床の流れ)

着床とは、受精卵が子宮内膜と接着したあと(図②)、子宮内膜の中へともぐり込む過程(図③、④)のことです。着床が完了して初めて「妊娠が成立」したといえます。着床が完了した受精卵はその後、絨毛(じゅうもう)と呼ばれる組織を通じて母体の血管から栄養・酸素を吸収し、赤ちゃんへと成長していきます。
受精から着床まで何日かかる?
自然妊娠の場合、排卵後に卵管で受精した受精卵が子宮に到達するまで約5~6日かかります。体外受精ではこの期間を外で培養しています。受精卵が子宮に到達すると(体外受精の場合は胚移植)、受精卵は子宮内膜と接着を開始し、子宮内膜の間質へと侵入していきます。完全に内膜に埋没着床するまで、おおよそ1週間かかります。最終月経開始日を0週0日とすると、着床が完了するのは妊娠3週目頃です。
自然妊娠と体外受精で着床のタイミングは違う?
着床のメカニズム自体は自然妊娠でも体外受精でも同じです。異なるのは、受精卵(胚)が子宮に届くまでのプロセスです。
|
方法 |
着床の目安 |
妊娠判定の時期 |
|---|---|---|
|
自然妊娠 |
受精後5~6日 |
生理予定日以降に市販薬で判定 |
|
8分割胚移植(IVF) |
移植から2~4日 |
胚移植から約12日後にhCG採血 |
|
胚盤胞移植(IVF) |
移植直後~2日 |
胚移植から約10日後にhCG採血 |
着床したかどうか自分でわかる方法はある?
着床が完了したかどうかを明確に示す、全員に共通したサインはありません。以下に挙げる症状・変化は着床時期に起こりやすいものですが、「症状がある=着床している」とも「症状がない=着床していない」とも断定できません。症状の有無には大きな個人差があり、何も変化がない場合も多いです。
①着床出血|量・色・いつ頃起こるか
妊娠初期には、少量の出血がみられることがあり、「着床出血」と呼ばれたりします。受精卵が子宮内膜にもぐり込む際の出血とイメージされがちですが、それを裏付ける医学的な根拠は示されていません。
着床日と出血の関係を調べた研究(Wilcox AJ, et al. N Engl J Med. 1999. )では、出血は着床のタイミングと一致しないことが多く、明確な関連は認められなかったと報告されています 。そのため、「着床出血」と呼ばれているものの多くは、着床そのものではなく、妊娠初期のホルモン変化などによる出血が含まれている可能性があります。
生理との明確な違いはなく、見分けることは難しいとされていますが、参考として目安を示します。(いずれも一般的な目安であり、医学的に明確に区別できる基準ではありません)
|
|
着床出血 |
生理(月経) |
|---|---|---|
|
出血量 |
少量 |
だんだん増える |
|
時期 |
生理予定日前後と重なることがある |
周期的に起こる |
|
持続期間 |
数時間〜 1週間以上続く場合もある |
3〜7日程度続く |
なお、妊娠初期の出血は珍しいものではなく、約7〜25%の妊娠でみられる(Hasan R, et al. Obstet Gynecol. 2010.;Harville EW, et al. Hum Reprod. 2003.)と報告されています 。
”生理だと思っていたら、着床出血だった”ということは実際に診療の中であるため、前の周期でタイミング法を行った場合は、受診時に医師にお伝えください。
②基礎体温の変化|高温期が続く場合
通常の月経周期では、排卵後に基礎体温が上昇(高温期)し、生理の頃から下がり始めます。しかし、着床して妊娠が成立するとプロゲステロン(黄体ホルモン)の分泌が続くため、高温期が14日以上続きます。普段から基礎体温をつけている方は「生理予定日を過ぎても体温が下がらない」「熱っぽさ・だるさが続く」という変化に気づくかもしれません。
③おりものの変化|量・色の変化
妊娠初期は、女性ホルモン(エストロゲン・プロゲステロン)の影響により、子宮頸部や膣の分泌が増えるため、おりものの量が増えることがあります。
一般的に、妊娠初期のおりものは、白色〜透明で、普段より量が多くなることがあるとされています(Ramos-e-Silva M, et al., 2016)。
一方で、おりものの量や見た目の変化には個人差が大きく、特定の変化があっても、それだけで妊娠している、あるいは着床していると判断することはできません。
また、ピンク色や茶色のおりものがみられる場合は、おりものの変化というよりも、妊娠初期の出血が混じっている可能性があります(Hasan R, et al., 2010)。
なお、おりものの変化には個人差が大きく、変化をほとんど自覚しない方も少なくありません。
④着床痛・下腹部の違和感
着床痛という言葉は、着床の時期に、生理痛とは少し異なるチクチク・ピリピリとした下腹部の違和感や軽い痛みを感じたという声から使われるようになったのだと思われます。
ただし、着床そのものが痛みを引き起こすという明確な医学的根拠は示されておらず、「着床痛」は医学的に確立された概念ではありません。
妊娠初期には腹部の違和感や軽い痛みを感じることがありますが、その原因はさまざまであり、着床と直接結びつけられるものではないと考えられています。実際、妊娠初期には約20%の方に腹痛や出血がみられるとされており、正常な妊娠の経過でもみられることがあります(Knez J, et al., 2014)。
一方で、強い痛みや出血を伴う場合、痛みが続く場合には、早めに医療機関を受診してください。
⑤胸の張り・眠気・吐き気(妊娠超初期症状)
着床後は、hCG・プロゲステロン・エストロゲンなどのホルモンが上昇することで、体調の変化が現れることがあります。
・胸の張り・痛み:妊娠初期によくみられる症状の一つ
・強い眠気・倦怠感:プロゲステロンの作用による
・頭痛・腰痛:ホルモンバランスの変化に伴いみられることがある
・吐き気・胃のむかつき:妊娠初期にみられる代表的な症状の一つで、約半数の方にみられるとされ、hCGなどのホルモンとの関連が指摘されています(Niebyl JR, 2010)
これらの症状は早い段階から現れることもありますが、出現時期や程度に個人差が大きく、まったく症状が出ない方もいます。
また、これらの症状だけで妊娠しているかどうかを判断することはできません。
⑥妊娠検査薬|使用できる時期と正確性
市販の妊娠検査薬は、着床後に分泌されるhCGホルモンを尿中で検出します。正確な結果を得るためには、使用タイミングが重要です。
- 推奨タイミング:生理予定日から1週間後以降
- フライング検査(生理予定日前):hCGの分泌量がまだ少なく、妊娠していても陰性になる「偽陰性」が起きやすい
- 陽性が出た場合でも:自己判断せず、必ず医療機関を受診してください
- 陰性だが生理が来ない場合:1〜2週間後に再検査、改善しない場合は受診を
hCG注射による黄体補充療を行った方は、注射後6日以内の検査では偽陽性が出ることがあるため注意が必要です。
最も正確な確認方法
着床したかどうかを最も正確に確認できるのは、医療機関での血液検査(血中hCG測定)です。自覚症状にかかわらず、着床の有無・妊娠の進行状況を客観的な数値で確認することができます。
血液検査(hCG)と尿検査の違い
血液検査:正確な値までわかる
血液検査では、hCGの量を正確に測定できます。着床の有無だけでなく、妊娠の進行状況や継続の可能性なども予測できます。また、妊娠判定の結果が陰性であっても、hCGの数値をもとに着床したかを確認することができ、次回の治療方針に役立てることができます。体外受精の場合は正確な妊娠判定が重要になるため、血液検査を行うのが一般的です。
尿検査(市販の妊娠検査薬):手軽
尿検査は、hCGが一定の基準値以上に達しているかを簡単にチェックできます。市販の検査薬では50 IU/L以上を陽性と判定するものが主流ですが、25 IU/L以上で検出できるタイプもあります。尿検査が陰性でも、着床が遅れていることでhCGの基準値に達していない可能性があります。しばらくしても月経が来ない場合は、再度尿検査をするか医療機関を受診してください。
体外受精後の妊娠判定タイミングと当院の基準値
当院では以下のタイミングでhCG検査を実施しています。
|
hCG値(mIU/mL) |
妊娠継続の可能性 |
当院の対応 |
|---|---|---|
|
100以上 |
◎ 高い |
薬剤継続・次回検査へ |
|
30〜100未満 |
○ あり |
薬剤継続・経過観察 |
|
10〜30未満 |
△ 低め |
薬剤継続・慎重に経過観察 |
|
10未満 |
× 低い |
薬剤中止・次回月経を待つ |
当院では、胚盤胞移植の場合は移植日から約10日後、初期胚移植の場合は移植日から約13日後に最初のhCG検査を行います。この時点でhCGが10 mIU/mLを超えていれば着床している可能性があると判断し、薬剤の使用を継続します。最初のhCG検査から7〜10日後に再度採血を行い、着床がどの程度進んでいるかを確認します。
なお、着床前診断(PGT-A・PGT-SR)を実施した胚は、栄養外胚葉を一部採取する影響でhCGの値が低めに出る傾向があります。当院ではこの場合、hCGが4 mIU/mL以上を着床可能性の基準としています。
hCGの値ではわからないこと
hCGの値だけでは、子宮外妊娠や流産を予測することはできません。生理のような出血がある場合でも、月経ではなく子宮外妊娠による出血の可能性があります。子宮外妊娠は発見が遅れると母体に危険がおよぶこともあるため、胚移植後はhCG検査の結果にかかわらず、必ず診察を受けてください。
hCG注射による黄体補充療法を受けた方への注意点
胚移植後にhCG注射で黄体補充を行った場合、注射から6日以内の採血では実際よりhCGの値が高く出ることがあります(偽高値)。一方、黄体補充を行わなかった場合、またはルトラール・プロゲステロン坐薬のみを使用した場合は、適正なhCGの値が検出されます。
胚移植後の過ごし方と注意点
胚移植後、「安静にしているほうが妊娠しやすいのでは」と心配される方もいらっしゃいますが、多くの研究によって安静が妊娠率や流産率に影響しないことが確認されています。「これをすれば妊娠できる」「これをしたら妊娠できない」というような生活指針もありません。普段と同じ生活を送っていただいて問題ありませんので、安心してお過ごしください。
着床・妊娠を維持するために大切なのは、胚移植後の薬剤を毎日忘れずに使用することです。また、来院日を変更する際には、次回までの薬が手もとに十分あるかどうかを必ず確認してください。来院日を守ることが着床・妊娠維持のために最も重要です。
よくある質問(FAQ)
Q. 着床したら必ず症状が出ますか?
A. いいえ、症状が出ない方も多く、症状の有無だけで着床の有無を判断することはできません。妊娠初期には出血や体調の変化を感じることがありますが、これらはすべての方に現れるものではなく、個人差があります。また、これらの変化も着床そのものによるものとは限りません。症状がなくても着床していることは十分にあるため、正確な判定は妊娠検査で確認する必要があります。
Q. 着床出血と生理の違いは何ですか?
A. 着床出血は妊娠初期にみられる出血を表す通称ですが、生理と比べて量が少ない傾向があります。一方で、生理は時間とともに出血量が増えるのが一般的です。ただし、出血の量や時期だけで両者をはっきり区別することは難しく、妊娠初期の出血は一定の割合でみられることが知られています。
見分けがつかない場合は、自己判断せず、妊娠検査や医療機関での確認をおすすめします。
Q. 体外受精後、着床はいつ頃起こりますか?
A. 胚盤胞移植の場合は移植直後〜2日、8分割の初期胚移植の場合は移植後2~3日が着床開始の目安です。その後着床の進行に伴ってhCGが分泌・増加し、当院では胚盤胞移植後約10日・初期胚移植後約13日に最初のhCG検査を行います。
Q. 妊娠検査薬はいつから使えますか?
A. 市販の妊娠検査薬は生理予定日から1週間後以降のご使用をおすすめします。それより早い時期(フライング検査)はhCGの分泌量がまだ少なく、妊娠していても陰性になる「偽陰性」が起きやすいです。また、hCG注射による黄体補充療法を受けた方は注射後6日以内の検査では偽陽性が出ることがあります。
Q. hCG検査と尿検査、どちらが正確ですか?
A. 医療機関での血液検査(血中hCG測定)は直接hCGの量を測定できるため最も正確です。
まとめ・当院のご案内
着床したかどうかは、自覚症状だけで判断することはできません。妊娠初期には出血や体調の変化を感じることがありますが、これらは個人差が大きく、症状がなくても着床していることは十分にあります。
現時点で最も確実に妊娠の成立を確認できるのは、hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)を測定する検査です。
・着床出血:妊娠初期に少量の出血がみられることがありますが、すべての方に起こるものではなく、月経との区別は難しい場合があります
・基礎体温:高温期が一定期間続く場合、妊娠の可能性が考えられます
・おりもの・下腹部の違和感・体調の変化:個人差が大きく、症状の有無だけで判断することはできません
・妊娠検査薬:生理予定日から1週間後以降の使用が推奨されています
・hCG血液検査:最も正確な方法です。当院では、胚盤胞移植後10日、初期胚移植後13日を目安に判定を行っています
反復着床不全や流産でお悩みの方、体外受精・自然妊娠にかかわらず妊娠を目指している方は、ぜひはらメディカルクリニックにご相談ください。不妊治療専門医が一人ひとりの状況に合わせた治療を提案します。
体外受精について詳しくはこちら 人工授精の妊娠判定について監修医師
宮﨑 薫みやざき かおる
はらメディカルクリニック理事長・院長
- 医学博士
- 日本参加婦人科学会認定 産婦人科専門医・指導医
- 日本生殖医学会認定 生殖医療専門医・指導医
- 日本内分泌学会認定 内分泌代謝科専門医
2004年慶應義塾大学医学部卒業、2013年慶應義塾大学大学院医学研究科修了。2013年4月東京歯科大学市川総合病院産婦人科助教 2014年4月慶應義塾大学産婦人科助教。2017年10月 USMLE(米国医師国家試験)Step1–3 合格。2017年10月ノースウェスタン大学産婦人科(米国シカゴ)研究助教授。2018年10月荻窪病院産婦人科勤務。2020年5月はらメディカルクリニック院長就任。2020年7月医療法人社団暁慶会理事長就任。