20代後半からなんとなく将来を不安に思っている女性も多い中、妊娠や出産、仕事などどのような選択肢から選ぶか悩みはつきません。
そんな中、未来の選択肢のひとつとして卵子凍結を検討した人、実際に卵子凍結をした体験者など立場の異なる4名の視点から卵子凍結、そして女性の生き方や働き方についてお話しいただきました。
株式会社ステルラ代表。
現在32歳。27歳の時に卵子を凍結。卵子凍結をきっかけに女性のヘルスケアについての関心が高まり、現在はフェムテックに関する事業を行う株式会社ステルラを設立。
モデル、タレント
現在36歳。35歳の時に当時のパートナーと受精卵凍結を実施。今年再び卵子凍結を行い、現在はご自身のブログやYouTubeなどでもご自身の体験を情報発信。
はらメディカルクリニック看護師
現在34歳。昨年から卵子凍結にチャレンジ中だがまだ卵子がとれておらず引き続きチャレンジ中。
はらメディカルクリニック総務部
現在32歳。日々クリニックに関する情報発信などを行なっている。仕事の中で卵子凍結について詳しく知り、検討はしたが現在はする予定はない。
川本:
では私から…今日は卵子凍結をしないと決めた立場から皆さんとお話しさせていただけたらと思います。私ははらメディカルクリニックの総務部でもちろん卵子凍結は知っていたのですが、自分ごとには思えていませんでした。
30歳になったばかりの2021年に、大々的にクリニックで卵子凍結を始めることになり、私も対象の1人だと思い、年齢的にもちょうど良い時期だったので、本気で考えるようになりました。
鈴木: そこから今はやらなくていいかな?と思ったのはなぜ?
川本:
将来、子どもが必ず欲しいというのはなく、できなかったらそれはそれで諦められると今は思ったからです。
もし卵子凍結をしたとして、使うとなると40歳目前になった時になるだろうと思っていて、 そこから無事出産までできたとして私は子育てをできるのだろうかと考えると、踏みとどまってしまうなと。そうした時に凍結した卵子が無駄になるのが嫌だなと。
だったら、今の自分へ投資したり、やりたいことにお金かけたいと思い、現在は卵子凍結をしない決断をしました。
鈴木:
私ははらメディカルクリニックで、看護師をしています。今日は卵子凍結にチャレンジしつつ、なかなか結果に結びついてない人の立場でお話はできればなと思います。
ある時当院で、AMH値という卵巣の予備能力値を測る検査をたまたま受ける機会があり、当時30歳になったばかりなのに結果は46歳レベルだったんです!
鈴木:
卵巣がもうあまり機能しないかもと知った時に、自分は子どもが欲しいのか?子どもを育てられるのか?など色々考えました。将来的に母親にはなりたいと思った時に子どもを持とうと思っても私の場合、遅いと思っていたので、とりあえず卵子だけでも取っておこうと。ただ医学的知識として未受精で凍結した卵子はそこまで成績が良くないことをを知っていたので悩みましたが今年の2月、もうすぐ34歳になるタイミングでスタートしました。
採卵を2度チャレンジしているのですが卵子が育たず…今3度目にチャレンジ中です。うまく採卵ができなくても卵子凍結に挑戦することに意味があると思って始めたので、引き続き挑戦しています。
西:
私は20代で凍結して、周りからも早いねと言われます。27歳の時に同じ歳の友達が不妊治療をしていて、その時に初めて「子どもってできないことあるんだ」と知ったくらいの知識レベルでした。その友達に「まだ結婚とか考えてないなら、卵子凍結あるからしてみたら?」と言われて初めて卵子凍結を知りました。
私は20歳からずっと生理がとてもきつく、ピルを飲んで生理をコントロールしていたので、卵子凍結に対しても、産むタイミングをコントロールすることに、あまり抵抗感はなかったです。
当時そんなに大掛かりな手術をするとも思っていなかったので、クリニック主催の説明会に参加し、大枠の流れと金額感を把握して、そのままそのクリニックで卵子凍結しました。
前田:
私は受精卵凍結と未受精の卵子凍結と両方した経験があるのでその立場から今日は色々とお話しできればと思います。
大学生の頃ニューヨークにいて、その時から卵子凍結という言葉自体に触れていました。当時同級生の女性の友達は、やりたいことがはっきりしている人たちだったので、「30歳になってみんな相手いなかったら、みんなで一緒にやろうよ」とふざけて言っていました(笑)そんな思い出話が記憶に残っていましたが、当時アメリカでも高額な出費がかかるので手の届かない治療だと思っていました。
そこから35歳になった時に婦人科に行き、子宮検診をしたら高度異形成が見つかり、医師から「今後出産も考えてらっしゃると思うので、円錐切除を避けてリスクの低い方法で手術しましょう」と言われて手術をしました。手術は無事成功したのですが、そこで初めて『出産』という言葉を医師から聞かされて、出産について考えるきっかけになりました。
前田:
ちょうどその時に卵子凍結を知人から勧められ、とりあえず説明会に行くことにしました。当時私はパートナーがいて、卵子凍結よりも精子と受精した受精卵凍結の方が、成功率が上がると聞き2人で説明会に参加しました。
説明会を受けて、仕事と出産の選択に苛まれていたことに初めて気が付きました。それまではどちらかというと仕事命で、まだ自分のやりたいことがちゃんとできてないから、子どもを欲しくないのだと思っていたくらいです。
良かった点としては、絶対安心というわけではないけど、受精卵を凍結することによって自分の選択を今迫られなくてよいと思ったらなんかすごく未来が楽しく思えました。
鈴木: 受精卵凍結という選択肢を知ると、焦らなくなりますよね。
前田:
そうですね!それで受精卵凍結に踏み切り卵子の数も結構取れて。安心していたら、パートナーと別れることになりまして…凍結した受精卵は破棄しなければいけないことになりました。
将来私のお腹に戻る子たちみたいな気持ちがそこで芽生えてしまい、破棄となった時に自分の子どもを殺すようでまた振り出しに戻された感があり、そのことでパートナーを責めて落ち込みたくなかったので卵子凍結に踏み切りました。
そこから自分の力でできることを前向きに、これから生きていくために、もう一度採卵をして、次は卵子凍結をしようと決意しました。
前田:
綿密にスケジュール組んで仕事で迷惑かけないようしていたのですが、生理が珍しく1週間くらい早く来てしまい…仕方がないので各所へ謝りの電話をして、電話の相手も声がだいぶ不機嫌でしたし、急な日程変更の説明に困りました。
卵子凍結は自費治療なのでどうしても本人のエゴとも捉えられてしまう。仕事が忙しすぎてスケジュールを確保できない人にとってハードルが高いと思いました。
鈴木: スケジュールと経済的な負担は誰でもつきもので、患者さんでも悩まない人はいないと思います。
西:
確かに夜間受診できるクリニックを探したのですが、結果1~2時間平気で待つことも多かったのが衝撃的でした。
あとホルモン剤を打っていく中で、PMS(月経前症候群)のような症状がすごく出ました。情緒不安定な感じで、お腹もとても張るなどの症状が出ても仕事しながら打ちに行っていたので辛かったです。
鈴木: 当時、周りや職場の方とかに、そういう話とかしましたか?
西:
特に仕事の人には言わなかったです。ただ営業も踏まえた仕事だったので、夕方に営業先に訪問した後に行くなど調整をしていました。
採卵手術の後は、仕事できないかもと言われたので、土曜の朝に手術しました。私の場合、麻酔が効きすぎて気持ち悪くなり、3時間ぐらい吐きそうになりながら寝かせてもらっていました。
前田: 私もSNSで卵子凍結される方から質問などいただくのですが、難しいのが、同じホルモン剤を打っていても、感じ方や症状の出方も違うので、一概に言えないなと。
西:
うんうん。確かに。難しかったです。自分と同じ症状が出るかどうかも分からないですし。それよりひどい症状が出ちゃった時に、そんなに言うほどきつくないとか伝えたらダメだろうし。
それと周りの話を聞いていて金銭面がネックになっているとは思いますね。
前田: 経済的な負担は正直ありますよね。一応概算費用は出せるけど、人によって状況が異なるので、最終的な額がいくらになるのか私はやりながら1番不安だったところでもありました。
西:
色々と大変なことはあったのですが、卵子を凍結した後に、精神的にすごく解放されました。当時付き合っていた彼氏がいたのですが、周りが結婚・妊娠・出産のラッシュだったので、自分も決断しないとと思っていたけど「この人でいいのだろうか?」という思いもあって焦っていました。ただ卵子凍結したことによって、チャレンジできる気持ちに切り替わったというか、新しいことを始めてみようと気持ちも前向きになれました。
そういう意味で、精神的にプラスだった面も含めて友達や周りの人に話しました。
鈴木: 将来やりたいことが決まってないとか、将来子どもを持ちたい、結婚したいと思っているけど、パートナーが見つかっていない人こそ卵子凍結をやって欲しいです。
前田:
すごくわかりますソレ。私自身、受精卵凍結する時がまさにそうだったから。いつでも、まだ後で大丈夫だと思えるし、子どもを持つ夢を持っていることすら本人が気づいていないことも多いと思います。
子どもを授かるためというよりも、むしろ人生を担保するためにやってよかったと思います。
鈴木: 人生の優先度はタイミングによっても変わるので、自分を知る意味で検討すると良いと思いました。もちろん、卵子凍結することを押し付けはしませんが。
前田:
難しいのが、卵子凍結自体がすでにやると決めている人のところにしか情報が届かないんですよね。そもそもまだ決めてない状態の女性に届きにくいので、それこそ高校生・大学生の時にこういう治療があることは私は知っていたかったなって。
女性が自立しようって思った時に、自分の経済力とか、年齢的なカベがあるわけで。それを考えると、どうしても男性に依存するところがあると思います。
西: 私自身誰かに依存したり頼ったりする人生が嫌だから、自分で自分の人生を選択して生きていきたいですね。
鈴木: 私の理想は女性同士で化粧品の話をするみたいに「私はこのメーカーのファンデーションを使っている」とか「この化粧水使ってみてどうだった」とかそういった感覚で卵子凍結や不妊治療など気軽に話して情報交換できたらなと思います。
西: 卵子凍結した当初、友達に「卵子凍結した方が絶対いいよ!」と勧めていました。でも価値観を押し付けるのは違うなと少し時間が経ってから思って、今は「選択肢の1つとしてあるから、知っておくべき」と周りに話すようにしています。
鈴木: 押し付けは確かによくないですよね。子どもをつくらないと決めている人もいますし。ただ、選択肢を知らないままで後悔してほしくないと思います。
前田:
卵子凍結がもっと市民権を得た治療になったら、「産まない」を選択した人も、「産む」を選択した人に対しての見方も変わると思います。
私、卵子凍結して、自己注射までして卵子凍結や不妊治療を頑張っている女性の皆さんへのリスペクトがすごく上がりました。自分で経験した人生しかよく知らないけれど、クリニックの待合室で待っているこの人たちは、みんな自分に針を刺(自己注射)していることを想像したら本当に尊敬しかないです!
西: 自分の身体のことって全然知らないなって。一方で無知であることを思い知ったきっかけでもあって。歳を重ねるたびに産めなくなっていく現状も、知らなかったし、 卵子凍結があることももちろん知らなかった。自分の身体を知った上で、卵子凍結とかピルとかそれぞれ取り入れられるような選択肢を知っていく必要があるなと。
川本: 最近では、不妊治療も保険が適用されて安くできるようになっていますが、卵子凍結は保険適用外なので自費になってしまいます。将来、凍結しておいた卵子を使って体外受精をする時も自費です。そうすると、私はきっと卵子凍結をしたとしても、妊活するときは保険でできる不妊治療からはじめると思うんです。それでも結果がでなければいずれ凍結しておいた卵子を使うと思いますが、そこまで気持的には頑張れず結局使わないかな...と。
前田: 凍結した卵子使わないかもって思うことあります?
西:
今はちょっと思っています。当時は27歳だったので、30歳超えて結婚、妊娠できたらいいなと思っていたのですが、実際は今年32歳でパートナーもいない。いつか結婚することあるのかなと自分の人生に疑問を抱いてきて、卵子を使わない可能性もあると思っています。
でも、凍結したことは自分の人生の選択肢の担保であるとは思っていて、だから後悔はしないだろうなと。それに対して納得感を持てる限りは、そこにお金を使ったことに対して後悔とかはしないと思いますね。
前田: 同感です。使わないかもしれないからどうしようって、 あんまり悩まなかったです。
鈴木:
私も例えば4年後(38歳)に、結婚していて不妊治療の保険が継続していれば凍結したものではなく、普通に保険適用する治療から始めると思います。
もしくは、結婚しなかったら一生使わないかもしれないけど、「私、これやっているから大丈夫」と安心材料としてやっています。
鈴木: 今日話しているようなことを男性にも知ってほしいなと思っています。
前田:
女性は年齢とともに生殖機能が衰えていくという基本的な知識を男女共に知る必要があるなと思います。
私の場合はほんとに周りの協力あって、卵子凍結できましたが、一人ではできなかったです。
鈴木: 理解は大事ですね。私もホルモン注射している間、毎日頭痛がひどく薬飲めば周りに支障なく働けますが、自分のパフォーマンスとして納得できない状態ってストレスですよね。しかもうまく育たない状況になる人もいるわけですし。
前田: そういうことを周りが知っていてもらえたらすごくありがたいですし、逆に自分が知っているから同じことやると言われたらサポートできると思います。卵子凍結をしたい人だけじゃなくて、色々な価値観の人が卵子凍結に関する知識を知って考えてみてほしいと思います。新しい選択肢や考え方をもたらすことでみんなの悩みが増えるかもしれないですけど。
鈴木: 多くの人が若いうちに自分の人生を考えていなくて、40歳手前になって焦り出して悩むことも多いと思います。だったら、私たちや卵子凍結した人が発信する情報を少しでも目に触れるところに置いておいて、早い段階で悩んだほうがいいのかなと思います。
西: 私も同じで、悩んだ方がいいと思います。ここできちんと自分の気持ちと対峙しないと周りや、パートナーに流されたりとか、誰かに頼る人生になってしまうと思うので、しっかり自分の軸をもって生きるという意味ではすごいいい時期だなと私は思います。
川本: 私は今凍結しないと決めていて、40歳ぐらいで子ども欲しいって思うかもしれないですが、今すごく悩んでいるので諦めはつくなと思います。
鈴木: そう思います。すごいちゃんと考えているから。
川本: 後悔したとしても、ほんとに知らなかった、やれなかった、できなかった、無理だったみたいな人との後悔とはちょっと違うかなと思います。
川本: 今日みなさんとお話したら、卵子凍結やりたくなるだろうなって思いながら来たのですが、改めて考えた上で「やらない」を決断できたので、自分の中できちんと考えられているなと思って、自信を持てるようになりました。
川本: あと前田さんがおっしゃっていた、色々な負担がありながらも卵子凍結や不妊治療をされている方に対してのリスペクト。これってもう世の女性、男性や皆さんに知ってほしいなって思いました。私の仕事はクリニックのことを発信していくことなので今後も発信してたくさんの方に知ってもらいたいなと思いました。
鈴木: まだ卵子凍結はチャレンジ途中でうまくはいってないですが、ポジティブすぎることがすこし悩みだったのですが、今の考えを改めて話したことによって「ああ、私でもちゃんとここまで頑張ってるじゃん」と少し安心できた部分がありました。皆さんのいろんな視点を知ることができて看護師としても、当事者としてもできることがもっとあると思えました。
西:
今日は「卵子凍結」をテーマにお話をさせていただいたのですが、その中で、皆さんの人生の背景や、人生観みたいなものが垣間見れて、とても貴重な機会でした。
その中で、卵子凍結をする、しないの決断をして、力強く生きていることに熱量をもらって、私自身も私の会社としても、そういう女性たちを応援していきたい気持ちがすごくあるので、卵子凍結も踏まえ、色々頑張っていきたいと思いました。
鈴木: 確かに!
前田: だからこういう、内容は重たいですけど、私たちにとっては日常の話で女子会みたいな雰囲気でこうやってお話ができてとてもよかったです。
鈴木: 今日それぞれの考えが否定されなかったの、すごいなと。それぞれがきちんと悩んでから会話した結果、やっぱり今の結論が自分に合っているのだとお互いが納得できたのもよかったと思いました。