Column

体外受精は痛い?採卵・胚移植の痛みと対策を医師が解説

体外受精は痛い?採卵・胚移植の痛みと対策を医師が解説

「体外受精って痛いの?」「痛みに弱くても大丈夫?」

体外受精を検討するとき、多くの方が最初に感じるのが「痛みへの不安」です。これは当然の疑問です。採卵は膣から針を刺しますし、卵巣刺激の注射も連日続くことがあります。

結論からお伝えすると、感じ方には個人差がありますが、現代の体外受精では、細い針や麻酔、鎮痛処置の進歩により、多くの方で痛みを大幅に軽減できるようになっています。

ただし、どの処置でどの程度の痛みがあるかを事前に知っておくことで、不安はぐっと和らぎます。

この記事では、体外受精の各ステップにおける痛み・麻酔の種類・当院の痛みへの取り組みを、正直に・具体的に解説します。

 処置別・痛みレベル早見表(当院での目安)

処置・検査

痛みの目安

麻酔

感じ方の目安

採血・血液検査

★☆☆☆☆

なし

一般的な採血

経腟超音波検査

★☆☆☆☆

なし

軽い圧迫感のみ

自己注射(皮下注射)

★★☆☆☆

なし

チクッとする程度。慣れると苦にならない

人工授精

★★☆☆☆

なし

チューブ挿入痛ではなくクスコに痛みを感じる場合がある

採卵(静脈麻酔下)

★☆☆☆☆

静脈麻酔

眠っている間に終了。術後に鈍痛の場合は痛み止めを使用

採卵(局所麻酔下)

★★★☆☆

局所麻酔

鋭い痛みを感じる場合も。短時間なら耐えられる

採卵(無麻酔)

★★★★☆

なし

強い痛みを伴うことがある。採卵数が少いとすぐ終われる

胚移植

★☆☆☆☆

なし

チューブ挿入痛ではなくクスコに痛みを感じる場合がある

子宮鏡検査

★★☆☆☆

なし

痛み止め座薬を使用すれば多くが軽減できる

卵管造影検査

★★★★☆

なし

バルーン圧迫により強めの痛みを感じる場合がある

※痛みの感じ方には大きな個人差があります。上記はあくまでも目安です。
※子宮の入口(子宮頸管)が強く曲がっている場合は、人工授精や胚移植でカテーテルが通りにくくなります。その際は、子宮頸部を引っ張って角度を調整するため、強い痛みを感じることがあります。しかし、精子や胚を適切な位置へ届けるために必要な処置です。

採卵の痛み|程度・麻酔の種類・当院の対応

採卵は、経腟超音波で卵胞を確認しながら、膣から細い針を刺して卵子を吸引する処置です。「針を刺す」と聞くと怖いイメージがありますが、現代の採卵は麻酔と細針の技術向上により、痛みは大幅に軽減されています。

採卵に使う麻酔(静脈麻酔・局所麻酔)の違い

 

静脈麻酔(全身麻酔に近い)

局所麻酔

痛みの感じ方

ほぼなし(眠っている間に終了)

鋭い痛みを感じることがある

回復までの時間

採卵直後には覚醒。その後1時間程度安静にし、体調を確認したうえで帰宅

30分程度安静にし、体調を確認したうえで帰宅

費用(保険3割負担の目安)

麻酔時間に応じて400円~1000円くらい

使用薬剤による

適している方

採卵数が多い方・痛みの少ない治療をしたい方

採卵数が少ない・麻酔後の回復時間を短縮したい方

注意点

麻酔の影響で車酔いのような気持ち悪さが残る場合がある(1割以下)

採卵中の痛みは感じる

当院は痛みの少ない体外受精を実施

当院では、保険診療・自由診療や採卵数にかかわらず、ご希望の方に静脈麻酔を実施しています。また、採卵時の点滴で使用する針は太く痛みを感じやすいため、点滴前の痛みを和らげるペンレステープ(局所麻酔テープ)を処方しています。できる限り不安や痛みを軽減できるよう配慮しながら体外受精を行っています。

採卵後の痛み・腹部不快感はいつまで続く?

採卵後は以下のような症状が出ることがあります。いずれも多くの場合、数日以内に改善します。

症状

持続期間の目安

対応方法

下腹部の鈍痛・生理痛に似た痛み

採卵当日〜翌日

市販の鎮痛剤(医師の指示に従う)

少量の膣出血

当日〜1〜2日

通常は自然に止まる

採卵数が多い場合の強い腹部不快感

採卵翌日~5日間

OHSSの可能性も。症状が強い場合は受診

採卵後に「お腹がパンパンに張る」「尿量が減った」「体重が急激に増えた」「息苦しい」などの症状がある場合は、OHSS(卵巣過剰刺激症候群)の可能性があります。すぐに採卵を行った施設へご連絡ください。(後述のOHSSセクション参照)

胚移植の痛み|ほとんどの方は無痛に近い

胚移植は、細い管(カテーテル)を使って受精卵を子宮の中に戻す処置です。採卵とは異なり、針を使わないため痛みはほとんどありません。

胚が入ったカテーテルは細く柔らかいため、挿入すること自体には痛みを感じることはほとんどありません。カテーテルを通しやすいようにするために使用するクスコが子宮の入り口を広げることへの痛みを感じる場合があります。

ただし、子宮の入口(子宮頸管)が強く曲がっている場合は、カテーテルを通すために子宮頸部を引っ張って角度を調整する必要があり、強い痛みを伴うことがあります。この処置は胚を適切な位置へ移植するために必要なものですが、毎回の移植でこの処置が必要な方にとっては大きな負担だと感じています。

移植後のチクチクした痛みは着床のサイン?

胚移植後に「下腹部のチクチク・ズキズキする感覚」「腰痛に似た感覚」を訴える方がいます。これを「着床のサイン」と期待する気持ちはわかりますが、医学的には着床の感覚として確認された現象ではありません。

移植後の下腹部不快感は、ホルモン補充薬(黄体ホルモン)の影響や、子宮が刺激に敏感になっていることで起こる場合がほとんどです。着床したかどうかは、移植した胚の状態に応じて設定された判定日に血液検査(hCG値)で確認します。

採卵後のOHSS(卵巣過剰刺激症候群)とは

OHSS(卵巣過剰刺激症候群)は、卵巣で多数の卵胞が発育し、大量のホルモンが分泌することで、血管の透過性が高まり、お腹に水が溜まる症状です。

重症度

主な症状

発生頻度(目安)

対処

軽症

軽い腹部膨満・張り感

採卵数が多い方の発生頻度は高め

OHSS予防役を処方。多くは自然軽快

中等症

強い腹部不快感・吐き気・体重増加(2〜3kg超)

少ない

外来での経過観察・処置

重症

腹水・呼吸困難・血栓症リスク

まれ

入院が必要

リスクが高い方(多嚢胞性卵巣症候群・AMH高値・若年の方など)には、卵巣刺激の方法・LHサージの方法をあらかじめ調整したり、全胚凍結にするなど、OHSSの低減に努めています。また、 以下の症状が採卵後に現れた場合は、すぐに採卵を実施した施設に連絡してください。当院ではOHSSの傾向を確認する血液検査が院内で実施できます。早期発見・早期治療が重要です。

・強く腹部の腫れを感じる

・尿量が急に減った・ほとんど出ない

・体重が1〜2日で2kg以上増えた

・息苦しい・動くのがつらい

・吐き気・嘔吐が続く

注射・採血の痛みについて

体外受精の治療中は、排卵誘発剤の注射を毎日または隔日で行うことがあります。また、採卵の2日目の夜にはLHサージの注射が追加されることが多いです。これが「体外受精は大変そう」と感じる大きな理由のひとつです。

しかし、現在は、痛みをほとんど感じない自己注射用のペンタイプ注射が開発されました。下の写真の通り、医療従事者が使用する上の注射器に比べて、下のペンタイプは針が細くて短いことがわかります。

注射器による針の太さや長さの違いを説明

注射の種類

方法

痛みの目安

排卵誘発剤

①医療機関で実施する注射
②自分で実施するペンタイプの注射

②は針を刺す痛みはほとんど感じない

HCG注射(トリガー)

ペンタイプの注射

ほとんど痛みはない

当院では可能な限り自己注射指導を行っており、連日の通院負担を軽減しています。注射が怖い方も、動画とスタッフの指導で多くの方がスムーズに習得されています。【院内データ挿入:当院の自己注射指導サポート体制】

採血は月に数回程度で、通常の健康診断の採血と変わりません。針への恐怖が強い方には、採血時の体勢・気分転換などのサポートもしています。

痛みを不安に感じている方へ|当院のサポート体制

「痛みが怖くて治療に踏み出せない」というご相談は、当院でもよくいただきます。当院では、できる限り身体的な負担を軽減できるよう、さまざまな取り組みを行っています。

取り組み

内容

静脈麻酔の実施

保険診療・自由診療を問わず、ご希望の方は静脈麻酔を選択できます。採卵中は眠っている状態となるため、痛みや緊張を軽減できます。

点滴の痛み対策

採卵時の点滴による痛みを軽減するため、事前にペンレステープ(局所麻酔テープ)を処方しています。

採卵針の選択

採卵では、痛みへの配慮だけでなく卵子の回収率も考慮して針を選択しています。静脈麻酔を行う場合は、より確実な卵子回収を重視して19Gを使用。無麻酔を希望の方には痛みに配慮して21Gを使用

完全個室の安静室

採卵後は完全個室でゆっくりお休みいただけます。ご主人の付き添いも可能です。

やわらかいカテーテル

胚移植では、子宮への負担が少ない細く柔らかいカテーテルを使用しています。

相談しやすい体制

処置中・処置後に不安や痛みがあればすぐスタッフにお声がけください。無料の看護師10分相談もあります。

「痛みに弱い自分でも体外受精を乗り越えられるだろうか」と不安に感じるのは自然なことです。実際に、同じような不安を抱えながら治療を始められる方は少なくありません。まずは診察でお気持ちやご希望をお聞かせください。お一人おひとりの状況に合わせて、できる限り負担の少ない治療方法をご提案します。

痛みへの配慮は妊娠への近道

不妊治療は、身体的な負担だけでなく精神的な負担も伴います。さらに、強い痛みへの不安や実際の痛みが続くと、治療そのものが苦痛となり、通院や治療の継続が難しくなることがあります。

不妊治療では、必要な治療を継続できることが妊娠への大切な一歩です。そのため、痛みや不安をできる限り軽減し、安心して治療に取り組める環境を整えることも重要だと考えています。

当院では、静脈麻酔の実施をはじめ、患者様の負担を少しでも軽減できるよう努めています。痛みへの配慮は、単に楽に治療を受けていただくためだけでなく、治療を継続し、妊娠を目指すための大切なサポートの一つです。

まとめ

体外受精の「痛み」について、処置ごとに整理してきました。

処置

痛みの実態

当院の対応

採卵

麻酔により痛みを大幅に軽減。静脈麻酔なら眠っている間に終了

静脈麻酔を活用。点滴針の痛みも考慮。採卵後は個室で安静

胚移植

ほとんどの方はほぼ無痛(クスコに痛みを感じる場合がある)

細径・軟質カテーテル使用。丁寧な操作で負担最小化

排卵誘発注射

自己注射用のペンタイプならほとんど痛みは感じない

ペンタイプの薬剤を複数用意

OHSS(合併症)

軽度なら自然回復するが、中程度以上は腹痛・だるさ・呼吸しずらいなおの場合がある

リスク因子がある場合は、卵巣刺激・LHサージを調整し全胚凍結。OHSS検査と初期対応は院内で迅速に実施

「痛みが怖いから、まだ体外受精に踏み切れない」

そのような方は少なくありません。しかし、実際に治療を始めた方の多くが、「思っていたより大丈夫だった」と話されます。

まずは体外受精について正しく知ることから始めてみませんか。当院の体外受精説明会では、治療の流れや費用だけでなく、採卵や胚移植の痛み、麻酔についても詳しくご説明しています。

体外受精説明会(動画配信・オンライン)に申し込む

監修医師

宮﨑 薫みやざき かおる

はらメディカルクリニック理事長・院長

  • 医学博士
  • 日本参加婦人科学会認定 産婦人科専門医・指導医
  • 日本生殖医学会認定 生殖医療専門医・指導医
  • 日本内分泌学会認定 内分泌代謝科専門医

2004年慶應義塾大学医学部卒業、2013年慶應義塾大学大学院医学研究科修了。2013年4月東京歯科大学市川総合病院産婦人科助教 2014年4月慶應義塾大学産婦人科助教。2017年10月 USMLE(米国医師国家試験)Step1–3 合格。2017年10月ノースウェスタン大学産婦人科(米国シカゴ)研究助教授。2018年10月荻窪病院産婦人科勤務。2020年5月はらメディカルクリニック院長就任。2020年7月医療法人社団暁慶会理事長就任。

医師・スタッフ紹介

よくあるご質問

回答

当院での採卵は主に静脈麻酔(意識がなくなる程度の麻酔)を使用します。全身麻酔とは異なり、処置後1時間程度の安静で帰宅できます。採卵が終わると通常の仕事に戻れる方がほとんどですが、採卵数が多い場合は1〜2日の安静を推奨することがあります。

回答

最初は不安に感じる方がほとんどですが、自己注射用のペンタイプは操作が簡単で、多くの方がご自宅で実施されています。当院では、動画教材とスタッフによる実技指導を行っており、多くの方がスムーズに習得されています。なお、自由診療では費用を抑えるためにシリンジを使用した自己注射を選択される方もいます。その場合も、「自己注射練習」でスタッフが丁寧に指導しますのでご安心ください。

回答

体外受精は、卵管を使用せずに妊娠できる方法のため、卵管造影検査は基本的に必要ありません。何か特別な理由がる場合のみ実施されます。

回答

採卵後の軽い腹部の鈍痛や張り感は通常の反応で、多くは1〜3日で改善します。ただし以下の場合は速やかに採卵を実施した施設へご連絡ください:強い腹痛が続く、尿量が急に減った、体重が1〜2日で2kg以上増えた、息苦しい、吐き気・嘔吐が止まらない。これらはOHSSや腹腔内出血の可能性があるため、早めの対応が必要です。

回答

胚移植の後は、安静にしていた方が妊娠しやすいのではないか!?と思うかもしれませんが、現在は、長時間の安静はもちろんのこと、短時間の安静(10分、20分、30分)も着床率・妊娠率・出産率を改善しないという共通の結果が示されています。詳しくは以下の記事をご覧ください。