体外受精(IVF)や顕微授精(ICSI)をする際に欠かせない治療のひとつが「採卵」です。初めて採卵を受ける方の中には、不安や疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
この記事では、採卵の役割や流れ、痛み、採卵後の注意点について詳しく解説します。
採卵とは
採卵とは、卵巣内で育った卵胞から卵子を採取する手術のことです。
体外受精や顕微授精では、採取した卵子と精子を体外で受精させるため、採卵は治療の第一歩となります。経腟超音波で卵胞の位置を確認しながら細い針を挿入し、卵胞液とともに卵子を回収します。

体外受精の流れ
体外受精は大きく以下の流れで進みます。
- 卵巣刺激
- 採卵
- 受精(体外受精・顕微授精)
- 胚培養
- 胚移植
- 妊娠判定

採卵は、受精に必要な卵子を採取する重要なステップです。良好な卵子を採取できることが、その後の受精や胚発育にもつながります。
卵子は減らない?
「採卵をすると卵子が減ってしまうのでは?」と心配される方もいらっしゃいます。
しかし、採卵によって将来排卵される予定の卵子を前倒しで使っているわけではありません。女性の卵巣では毎月たくさんの卵胞が育ち始めますが、自然に排卵されるのは通常1個だけです。
それ以外の卵胞は発育途中で自然に消失してしまいます。
体外受精では、排卵誘発剤を用いてその周期に育ち始めた複数の卵胞を発育させ、本来であれば消失するはずだった卵子も含めて回収します。 そのため、採卵によって将来の卵子を前借りしたり、卵子を余計に減らしたりするわけではありません。
採卵までの流れ
- 卵巣刺激
排卵誘発剤を使用し、複数の卵胞を育てます。
- 卵胞発育の確認
超音波検査やホルモン検査で卵胞の成長を確認します。
- 排卵誘発(トリガー注射)
卵胞が十分に成熟したら、卵子の最終成熟を促す注射を行います。
- 採卵
トリガー注射から約36時間後に採卵を行います。
採卵当日の流れ

採卵当日は、ご来院後に超音波検査を行い、卵胞の状態を確認します。
その後、安静室へご案内し、術着にお着替えいただきます。準備が整いましたら手術室へ移動し、静脈麻酔を行ったうえで採卵を開始します。
採卵では、経腟超音波で卵胞の位置を確認しながら細い針を用いて卵胞を穿刺し、卵子を回収します。採卵時間は卵胞数によって異なりますが、一般的には10〜20分程度です。
採卵終了後は安静室でお休みいただきます。麻酔から十分に回復した後、胚培養士より採卵結果についてご説明します。
当院では、採卵できた卵子の数や状態についてご説明したうえで、体外受精と顕微授精のどちらを行うかを患者さまと一緒に検討します。胚培養士に直接相談しながら受精方法を決められるため、疑問や不安を解消したうえで次のステップへ進んでいただけます。 その後、体調に問題がなければご帰宅となります。
痛みの少ない採卵
採卵に対して「痛そう」「怖い」というイメージを持つ方は少なくありません。
当院では患者さまの身体的・精神的負担をできる限り軽減するため、採卵時に静脈麻酔を使用しています。
静脈麻酔とは、点滴から麻酔薬を投与し、眠っているような状態で採卵を行う方法です。
採卵終了後は麻酔の効果が速やかに切れ、通常は採卵終了後10分以内に覚醒します。
静脈麻酔のメリット
- 採卵による痛みがほとんどない
- 手術に対する恐怖心や不安を軽減できる
静脈麻酔のデメリット
- 採卵中の記憶が残らない
- 頭痛や吐き気などが生じる場合がある
- まれにアレルギー反応が起こることがある
- 麻酔を使用しない場合と比べて滞在時間が長くなる
- 点滴部位に痛みや腫れが生じることがある
採卵は痛い?
採卵の痛みには個人差があります。
一般的には卵胞へ針を刺す際の痛みや圧迫感を感じることがありますが、当院では静脈麻酔を使用するため、多くの方は採卵中の痛みをほとんど感じません。
一方で、採卵後に生理痛のような下腹部痛や張りを感じることがありますが、多くの場合は数日以内に改善します。
卵子は何個採れる?
採卵数は患者さまごとに大きく異なります。
影響する主な要因は以下の通りです。
- 年齢
- AMH値(卵巣予備能)
- 排卵誘発方法
- 卵巣の反応性
採卵1回の平均卵子数
【卵巣刺激の方法】①PPOS 法、②アンタゴニスト法、③ショート法、④排卵抑制を行わない刺激法
個人差や周期により、「胞状卵胞数」や「卵巣の反応」は異なります。当院では、卵巣刺激方法➀~➃の中から、その時の状態に合わせて最適な方法を選択します。刺激量を増やしても発育卵胞数が単純に増えるわけではなく、卵巣の状態に応じた管理が重要です。また、年齢とともに胞状卵胞数と卵巣の反応性が低下するため、採卵で得られる卵子数は少なくなります。
| 年齢 | 高刺激 ① |
高刺激 ②③ |
中刺激 ①②③④ |
低刺激 ①②③④ |
|---|---|---|---|---|
| ~30 | 15.4個 | 16.8個 | 15.7個 | 18.0* |
| 31〜33 | 15.2個 | 11.3個 | 15.6個 | 14.4* |
| 34〜36 | 15.4個 | 9.8個 | 16.5個 | 14.6* |
| 37〜39 | 13.2個 | 10.2個 | 13.5個 | 7.6* |
| 40〜42 | 11.7個 | 6.9個 | 10.6個 | 3.5* |
| 43~ | 10.2個 | 7.1個 | 6.8* | 4.0* |
※ 2023年~2024年当院実績
※ AMH1以上の場合。n=1802周期
ただし、大切なのは採卵数だけではありません。
採卵した卵子の成熟度や受精率、胚の発育状況も妊娠率に大きく影響します。採卵数が少なくても妊娠につながることは十分あります。
受精・胚培養へ
採卵した卵子はその日のうちに培養室で体外受精または顕微授精を実施されます。その後、受精卵は数日間培養され、良好な胚は胚移植や凍結保存へ進みます。採卵はゴールではなく、妊娠に向けたスタート地点といえるでしょう。
採卵後の過ごし方
採卵当日は体調に問題がなければ、いつも通りの生活に戻っていただいて差し支えありません。体調に合わせて無理をしないことが大切です。
採卵当日の注意点
- 激しい運動を避ける
- お風呂はシャワーのみとする
- 飲酒を控える
- 車の運転を避ける
- 十分な水分補給を行う
OHSSとは?
OHSSとは、排卵誘発剤に卵巣が過剰に反応することで起こる合併症です。軽症であれば経過観察となりますが、重症化すると入院が必要になることもあります。
主な症状
- お腹の張り
- 腹痛
- 吐き気
- 体重増加
- 息苦しさ
採卵後にこれらの症状が現れた場合は、早めにご相談ください。
まとめ
採卵は、体外受精・顕微授精の最初のステップとなる大切な手術です。
採卵に不安を感じる方も多いですが、当院では静脈麻酔を使用し、患者さまの負担軽減に努めています。
不安なことや気になる症状があれば、お気軽に医師やスタッフへご相談ください。
監修医師
宮﨑 薫みやざき かおる
はらメディカルクリニック理事長・院長
- 医学博士
- 日本参加婦人科学会認定 産婦人科専門医・指導医
- 日本生殖医学会認定 生殖医療専門医・指導医
- 日本内分泌学会認定 内分泌代謝科専門医
2004年慶應義塾大学医学部卒業、2013年慶應義塾大学大学院医学研究科修了。2013年4月東京歯科大学市川総合病院産婦人科助教 2014年4月慶應義塾大学産婦人科助教。2017年10月 USMLE(米国医師国家試験)Step1–3 合格。2017年10月ノースウェスタン大学産婦人科(米国シカゴ)研究助教授。2018年10月荻窪病院産婦人科勤務。2020年5月はらメディカルクリニック院長就任。2020年7月医療法人社団暁慶会理事長就任。
よくあるご質問
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回答
当院では静脈麻酔を使用し、眠っている間に採卵を行います。
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回答
はい。多くの方は、採卵の翌周期から凍結融解胚移植を行っています。ただし、採卵後の子宮や卵巣の状態によっては、翌周期の移植を見合わせる場合があります。
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回答
いいえ。当院では全身麻酔ではなく静脈麻酔を使用しています。
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回答
体調に問題がなければ、通常通り行っていただいても大丈夫です。ただし、採卵後の体調には個人差がありますので、体調に不安がある場合は、無理をせず負担の少ない仕事内容にしたり、休んでいただいたほうがいいでしょう。
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回答
まれに卵胞があっても卵子を回収できないことがあります。
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回答
採卵後の軽い腹部の鈍痛や張り感は通常の反応で、多くは1〜3日で改善します。
ただし以下の場合は速やかに採卵を実施した施設へご連絡ください。- 鎮痛剤が効かず、強い腹痛が続く
- 尿量が急に減った
- 体重が1〜2日で2kg以上増えた
- 息苦しい
- 吐き気
- 嘔吐が止まらない
これらはOHSSや腹腔内出血の可能性があるため、早めの対応が必要です。