0.対象となる方
こちらは、非匿名AID・IVF-D説明会に参加し、SW面談まで終了した夫婦を対象としています。
これまでに学び、話し合ってきたことをもとに、別途ご案内しているGoogleフォームの「告知計画書」にご回答ください。告知計画書では、子どもへ何を、いつから、どのように伝え、子どもの質問や気持ちにどう向き合っていくかを具体的に整理します。
告知計画書を作成する際は、本ガイドを参考にしてください。告知計画書は、倫理委員会の審査書類となるほか、妊娠後面談でも使用します。
1.告知で目指すこと
告知の目的は、子どもが自分の生まれ方と遺伝的ルーツを知り、どのような気持ちを抱いたときも親に受け止めてもらいながら、自分自身の物語として理解していけるようにすることです。
そのために、次のことを大切にします。
- 「気づいたときには知っていた」状態を目指します
- 一度ですべてを理解させようとせず、短い言葉で繰り返します
- 成長に合わせて言葉を変えても、中心となる事実は変えません
- 子どもの質問には、分かっていることを正直に答えます
- 分からないことは、分からないと伝えます
- 子どもの反応が親の期待と異なっても、その気持ちを否定しません
⚠️告知とは、「父親と血のつながりがない」という否定を伝えることではありません。
💡告知とは、子どもがどのように生まれ、家族として迎えられたのかを伝えながら、成長とともに続けていく親子の対話であり、愛情のコミュニケーションです。
※ 参考文献:1~4
2.子どもに伝える基本的な事実
子どもが自分の生まれ方と遺伝的ルーツを理解するために、次の事実を伝えていきます。使う言葉や伝え方は、ご家庭や子どもの成長に合わせて変えていけます。
- 父母が子どもを迎えたいと願い、一緒に方法を探したこと
- 父には精子がなかったため、父母が医療機関で提供精子による治療を受けたこと
- ドナーの精子と母の卵子が受精し、母が妊娠して子どもを産んだこと
- 父親は、提供精子による治療をともに選び、子どもを迎え育てる親であること
- ドナーは子どもと遺伝的につながる人ですが、父親ではないこと
- 子どもは、母とドナーから遺伝的な特徴を受け継いでいること
- 成人後にドナーへの連絡を希望するかは、子ども自身が決められること。ただし、面会が実現するとは限らないこと
- 出自について聞くこと、知ること、誰かに話すことは、子ども自身が選んでよいこと
父がトランスジェンダー男性である場合は、父自身のプライバシーにも配慮しながら、子どもが自分の生まれ方を理解できるよう、何をどのように伝えるかを家族で考えます。
※ 参考文献:1、4~7
3.夫婦の経験をどこまで伝えるか
夫婦が治療に至るまでには、さまざまな思いや経験があったと思います。そのうち、次の内容は、子どもに伝える事実とは分けて、夫婦自身の物語として整理します。
子どもが、親の悲しみや治療の苦労を背負ったり、親の選択を肯定しなければならないと感じたりしないためです。
- 不妊によって経験した悲しみや喪失感
- 治療を選ぶまでの夫婦間の葛藤
- 治療に伴った負担や苦労
- 「これほど苦労してあなたを授かった」という思い
- 親の選択を肯定してほしいという思い
- ドナーに感謝してほしいという思い
⚠️親がドナーに感謝していることを伝えることと、子どもにも同じ気持ちを求めることは異なります。子どもが自分の気持ちを自由に持てるよう、「ドナーさんに感謝しようね」という言葉は、告知の言葉としては避けた方がよいと当院は考えます。
※ 参考文献:1、4、7~10
4.親と子どもにとってのドナー
親にとって、ドナーは、家族をつくるために精子を提供してくれた人です。一方、子どもにとっては、自分と遺伝的につながる人です。
子どもがドナーに抱く気持ちは、成長とともに変化していくことも少なくありません。例えば、次のような気持ちです。
- もっと知りたい、会ってみたい
- 興味がない、よく分からない
- うれしい、寂しい、腹立たしい
- 複雑で言葉にできない
💡子どもがドナーを知りたいと思うことは、父親や家族の否定ではありません。父親を大切に思う気持ちと、ドナーを知りたい気持ちは両立します。
親に不安や寂しさ、戸惑いが生じたときは、夫婦で話し合ったり、同じ立場の仲間や当院に相談したりしながら整理します。子どもが親を安心させるために、自分の気持ちを抑える必要がない関係を大切にします。
※ 参考文献の1、4、6、7、11、12
5.家庭で使う言葉を決める
告知を始める前に、家庭で使う言葉を夫婦で決めておきます。
- 父・母を家庭でどのように呼ぶか(「お父さん・お母さん」「パパ・ママ」など)
- ドナーをどのように呼ぶか
- 精子と卵子をどのような言葉で伝えるか
⚠️幼い時期には、精子や卵子を「命のたね」「たまご」など、親が話しやすい言葉で表すこともできます。まずは、親が無理なく伝え始められることが大切です。子どもの成長に合わせて、「精子」「卵子」という言葉も加えていきます。
※ 参考文献:1、4、5、13
6.告知で伝えていく内容を整理する
「2.子どもに伝える基本的な事実」に沿って、「5.家庭で使う言葉を決める」で決めた言葉を使い、子どもに語りかけるセリフとして一つの文章にまとめます。
これは、そのまま一度に話すための台本ではなく、告知を通して何を伝えるのかを、夫婦で確認するためのものです。
💡実際の告知では、この内容を短い言葉に分けて繰り返し、成長に合わせて表現を変えながら、情報を少しずつ具体的にしていきます。ただし、中心となる事実は変えません。
※ 参考文献:1、4、5、13、14
7.子どものための安全な告知
当院が推奨する「子どものための安全な告知」は、子どもが物心ついたときに、自分の生まれ方を「気づいたときには知っていた」と感じられる状態をつくることです。そのため、子どもが生まれてすぐから、愛情を伝える親子のコミュニケーションの中で、出自について繰り返し話します。子どもが成長に合わせて自然に理解し、自分自身の物語として受け止めていけるようにします。

子どもが理解できる・話がわかる時期まで待つのではなく、赤ちゃんのうちから声に出して伝えます。この時期に、子どもの理解や反応を求める必要はありません。まずは親自身が告知の言葉に慣れ、家庭の中で自然に話せるようになるための期間です。
告知は、次のような場面から始められます。
- 生まれた日に、抱っこしたとき
- 病院で沐浴したとき
- 退院して自宅へ戻ったとき
予定していた日に伝えられなくても、失敗ではありません。次の日から始め、続けていきましょう。
「もう少し後で」は、告知を難しくします
- 「もう少し落ち着いてから」「もっとよい機会に」と先送りするうちに、親の不安や抵抗が強くなり、さらに伝えにくくなることがあります。
- 実際に当院には、出生後すぐに始められず、2~3歳のイヤイヤ期に入ってさらにタイミングを失い、就学を前に「どうすればよいか」と相談にいらっしゃるご夫婦もいます。
- 子どもが成長してから初めて告知すると、「気づいたときには知っていた」状態ではなく、それまで理解してきた自分や家族の物語を後から修正する告知になります。親にとっても「実は……」と切り出す告知になりやすく、さらに伝えにくくなります。
告知には、すべての家庭に当てはまる一つの正解はありません。子どもが成長してから伝え、その後、親子で受け止めてきた家庭もあります。一方、伝えた直後は影響がないように見えても、成長する中で意味を理解し直し、後から大きな衝撃として受け止めることもあります。
💡子どもの受け止め方を、親があらかじめ予測することはできません。そのため当院では、言葉の意味を理解する前の、生まれてすぐから伝え始める「子どものための安全な告知」を推奨しています。
※ 参考文献:1、2、3、4、13、15、16
8.日常の中で伝え続けます
告知は、一度話して終わるものではありません。かといって、毎回特別な時間をつくる必要もありません。日常の会話の中で短く伝えていきます。
その際、妊娠13~20週に行う妊娠後面談でお伝えするドナーの情報も、会話に織り交ぜていきます。これらは、子ども自身の遺伝的ルーツに関する情報です。
ドナー情報を伝える時の留意点
- 分かっている事実と、親の想像を分ける
- ドナーを理想化したり、否定的に評価したりしない
- 精子提供時点の情報であり、現在とは異なる可能性があることも伝える
- 分からないことを推測で補わない
- 子どもがどのように受け止めても、その気持ちを尊重する
以下は、日常の中で起こりそうな場面と会話の例です。実際には、「5.家庭で使う言葉を決める」で決めた言葉に置き換えて考えてみてください。
ケース①寝かしつけながら愛情を伝えるとき
親:「大好きだよ。パパとママは、ずっと〇〇に会いたかったんだよ。〇〇は、ドナーさんの精子とママの卵子が一緒になって生まれたんだよ」
💡子どもがまだ反応を示さないときでも、いつもの愛情の言葉に生まれ方を短く加えることができます。
ケース②動物親子の絵本を読んでいるとき
親:(動物の親子のページを見ながら)「人の赤ちゃんは、ママのお腹で大きくなるんだよ。〇〇もママのお腹で育って生まれたんだよ。〇〇のときは、ドナーさんの精子とママの卵子が一緒になったんだよ。」
別のページを見ながら
親:「ドナーさんも、動物が好きだと教えてくれたんだよ。」
💡動物に限らず、絵本の内容とドナー情報が重なったときに、分かっている情報を短く加えることができます。
ケース③お風呂上がりに髪を乾かしているとき
親:「〇〇の髪は黒くて、くるくるしているね。ドナーさんの情報にも、髪は黒くてくせがあると書かれていたよ。〇〇の体には、ママとドナーさんから受け継いだ遺伝的な特徴があるんだよ。」
髪や目、手足など、体について話す日常の場面を親が見つけ、遺伝的なつながりについて少しずつ伝えていきます。
💡幼い子どもが、遺伝的な特徴について自分から質問することは多くありません。子どもから聞かれるのを待たず、親から日常の会話に取り入れていきます。普段からドナーについて話すことで、子どもも「聞いてよいこと」と感じ、疑問や気持ちを話しやすくなります。
ケース④ドナーと同じ「好きなもの」が話題になったとき
親:「〇〇が好きなんだね。ドナーさんも、〇〇が好きだと教えてくれたんだよ。」
子:「ぼくと一緒?」
💡ドナー情報と日常の出来事が重なったときに、分かっている事実を伝えます。
ケース⑤ドナーについて分からないことを聞かれたとき
子:「ドナーさんは、何色が好きだったの?」
親:「それはパパとママにも分からないんだ。ドナーさんへの質問ノートに書いておこうか。」
💡分からないことを無理に想像して答える必要はありません。分かっている事実と分からないことを分けながら、子どもの「知りたい」という気持ちを受け止めます。
※ 参考文献:1、4、5、13、14、16
9.年齢に合わせて伝え方と詳しさを変えます
告知は、年齢ごとに事実を小分けにして、後から新しい事実を開示するものではありません。「2.子どもに伝える基本的な事実」を土台に、子どもの生まれ方に関する中心的な事実を幼い頃から繰り返し伝えます。成長に合わせて変えるのは、使う言葉や一度に話す量、説明の詳しさです。
以下は、各年齢で初めて伝える内容や、理解の到達目標ではありません。子どもの発達や関心には個人差があるため、話し方を考えるためのおおよその目安です。子どもから質問があったときは、年齢を理由に先送りせず、そのときに分かる言葉で答えます。
0~2歳頃
子どもが生まれてすぐから、抱っこや寝かしつけなどの日常の中で、生まれ方やドナーとのつながりについて短い言葉で繰り返し話します。
子どもの理解や反応を求めるのではなく、親が告知の言葉に慣れ、愛情を伝える会話の中に告知を取り入れていく時期です。
3~4歳頃
絵本、赤ちゃん、家族、体の特徴など、子どもが興味を持った話題に、生まれ方やドナーについての話を結びつけ、短い言葉で繰り返します。
理解できているかを確かめる必要はありません。質問があったときは、そのときに知りたいことに合わせて短く答えます。
5~6歳頃
これまでと同じように、日常の中で生まれ方やドナーについて話し続けます。この頃になると、「もう分かっているよ」と反応することもあります。一方で、大人にはつながって見える事実が、子どもの中ではまだ結びついておらず、思いがけない質問が出ることもあります。子どもの反応に合わせながら、知りたいことはいつでも聞いてよいと伝え続けます。
就学前後は、家庭の外で自分の生まれ方を話す場面も考えられます。出自は隠すべき秘密ではありません。一方で、子ども自身の大切な個人情報でもあります。秘密にすることとプライバシーを守ることの違いを、家族で一緒に考えます(11項参照)。
7歳以降
これまでの会話を続けながら、子どもの疑問や関心に合わせて、説明をより詳しくします。
親子で話していると、これまで伝えてきたことを、子どもがどのように理解し、自分の中で解釈しているのかが見えてくることがあります。誤解していることや、まだ結びついていないことがあれば、その都度、分かりやすく伝え直します。
告知は、一度ですべてを理解させるものではありません。うまく伝わっていなかったとしても失敗ではなく、何度でも補い、伝え直すことができます。
ドナーについて知りたいこと、出自について感じていること、誰かに話したいと思ったときのことなども、子どもの気持ちを聞きながら話していきます。ドナーへの関心の強さや気持ちは、成長とともに変わることがあります。その時々の子どもの気持ちを尊重します。
※ 参考文献:1, 4, 5, 13, 14, 16
10.子どもの質問や反応を受け止める
子どもの質問や反応は、そのときの気持ちを知るきっかけになります。すぐに説明したり気持ちを訂正したりせず、まず、子どもの言葉を受け止めます。そのうえで、何を知りたいのかを確かめ、分かっていることを伝えます。分からないことは、無理に答えをつくらず「分からない」と伝えます。
💡子どもがドナーを知りたいと思うことや、複雑な気持ちを示すことは、父親や家族を否定することではありません。どのような気持ちも安心して話せる関係を大切にします。
「ドナーのことが嫌だ」
子:「ドナーさんのこと、嫌い。」
親:「嫌だと思っているんだね。それを話してくれてありがとう。」
子どもの気持ちを訂正したり、ドナーに感謝するよう求めたりしません。理由をすぐに聞き出そうとせず、話したくなったときに安心して話せることを伝えます。
「ドナーについて、なんでこれしかわからないの?」
子:「ドナーさんのこと、これしかわからないの?」
親:「もっと知りたいよね。今分かっていることを、一緒に確認しようか」
分かっている情報を一緒に確認し、どのようなことを知りたいのかを聞きます。情報にないことは推測で補わず、「分からない」と伝えます。
知りたいことを「ドナーへの質問ノート」に書きためておく方法もあります。成長とともに関心が変わり、後から見返したときには、もう知りたいと思わない質問もあるかもしれません。それでも、子どもにとっては、自分の「知りたい」という気持ちを親が大切に受け止めてきたことが分かる記録になります。これからも、安心して親に聞いてよいと思える支えにもなります。
※ 参考文献:1, 4, 7, 12, 16
11.秘密とプライバシーの違い
提供精子によって生まれたことを、「誰にも話してはいけない秘密」にはしません。子どもが誰かに話したいと思ったときに、話してはいけないとは伝えません。
一方で、出自は子ども自身の大切な個人情報です。話すかどうか、誰にどのように話すかを、子どもの成長に合わせて一緒に考えます。
「友達や先生に話したい」
子:「友達に、自分の生まれ方を話してもいい?」
親:「もちろん。話したいと思ったんだね。あなたの大切な個人情報でもあるから、誰に、どのように話したいのか、一緒に考えよう」
⚠️当院では、誰にどのように話すかを一緒に考え始める時期として、おおむね6歳頃を一つの目安と考えています。それより幼い時期に話す相手を制限すると、子どもが「話してはいけないこと」と受け取り、その後、出自について質問したり、気持ちを話したりしにくくなることがあります。
💡提供精子による生まれ方は、聞いた相手がすぐに理解できるとは限りません。中学生同士でも、よく分からないまま反応が薄くなることがあります。そのようなときは、否定されたとは限らないこと、一度で分かってもらう必要はなく、お互いに成長する中で少しずつ伝わっていけばよいことを、子どもに伝えます。
※ 参考文献:1、4、10、17
12.ドナーへの連絡
子どもがドナーについて知りたいと思うことは、父親や家族を否定することではありません。
提供精子で生まれた人がドナーについて知りたいと思う理由は、自分自身や遺伝的な背景を理解したい、身体的な特徴や医療・家族歴を知りたい、ドナーがどのような人かを知りたいなど、さまざまです。
当院の非匿名治療では、子どもが成人し、本人が希望した場合、当院を介してドナーへ連絡を申し入れることができます。一方で、その結果が子どもの希望どおりになるとは限りません。
⚠️ 「連絡できる」は、「会える」「関係が続く」という約束ではありません
次のような可能性があります。
- ドナーの返事が短く、そっけなく感じられる
- ドナーが面会を希望しない
- やり取りが一度で終わる
- 提供後に結婚して家族ができ、家族の意向や生活への影響から交流に慎重になる
- 会ってみると、思い描いていたイメージと異なる
- 交流する中で、好意を持てない、距離を置きたいと感じる
- ドナーが望む連絡の頻度や関係が、子どもの希望と異なる
子育ての中では、ドナーを理想化したり、成人後には必ず会える、交流が続くと伝えたりしないようにします。当院のガイドラインに沿って、成人後に当院を介して連絡を申し入れることはできるものの、面会やその後の交流は約束されていないことを、子どもの成長に合わせて誤解のないように伝えてください。
※ 参考文献:1, 4, 7, 11, 12
13.困ったときはご相談ください
告知を始める前も、始めた後も、迷うことがあります。予定していた時期に始められなかったり、思うように進まなかったりしても、それは失敗ではありません。気づいた時点から、あらためて始めることができます。
次のようなときは、当院へご相談ください。
- 告知を始めることが難しい
- どのような言葉を使えばよいか分からない
- 子どもの質問や反応への答え方に迷う
- 告知について夫婦の考えが合わない
- 実際のドナー情報を伝えにくい
- 子どもがドナーや遺伝的ルーツについて悩んでいる
当院では、妊娠後面談、心理カウンセリング、絵本作成会、親子会などの支援、成人後の情報開示やドナーへの連絡に関する支援を行っています。
告知は、治療前に作った計画をそのまま実行することが目的ではありません。子どもの成長や理解、関心、気持ちに合わせて伝え方を見直しながら、対話を続けていくことが大切です。
告知について迷ったときや、計画を見直したいときは、当院もご家族と一緒に考えます。
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