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ブログ・体外受精説明会レポート

タイムラプスエンブリオモニタリングシステム Embryoscope+の有効性【培養部より】

こんにちは、培養部です。
今年も残り2ヶ月を切り、寒さが増してきました。空気も乾燥してきましたので、お風邪等ひかれませんようにお気を付けください。
さて、前回のコラムでは卵子の質についてお話させていただきました。この卵子の質に関しましては、改善することが容易ではないということはご理解いただけたかと思います。そして、採卵した後に卵子の質を向上させることは現状誰にもできません。採卵した後の卵子に対して我々培養士ができることは、『いかに卵子の質を落とさずに培養するか』の1点のみとなります。そこで有効とされているものの一つがタイムラプスエンブリオモニタリングシステム(以下、タイムラプス)です。
以前にタイムラプスに関しましてはこちらのコラムで紹介させていただきましたので、既にご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、タイムラプスのシステムとは、胚を培養器(インキュベーター)の中に入れたまま胚の観察ができるというものです。2020年10月までの当院のデータをまとめましたところ、タイムラプスを使用して胚を培養することで、タイムラプスを使用しない場合に比べて胚盤胞発生率が約12%高い結果となりました。
何故、通常の培養器に比べこれほどの高い胚盤胞発生率上昇の効果が得られるのか。それには以下の二つの理由が考えられます。

①安定した環境下で培養可能
採卵後の卵子は受精操作の後、インキュベーターの中で培養を行います。インキュベーター内は温度、酸素・二酸化炭素濃度等がコントロールされており、また、胚が紫外線に曝されないよう光が入らない仕組みになっています。胚の良好な発育には、このような環境が必要となります。しかし、通常のインキュベーターでは、観察のたびに胚をインキュベーターから取り出す必要があり、その際に起こる環境の変化が、胚にストレスを与えていると考えられます。
タイムラプスは、内蔵カメラと顕微鏡を備えたインキュベーターで、胚をインキュベーターの中に入れた状態で観察ができます。そのため、培養環境が安定しており、胚へのストレスが軽減され、培養成績が向上したと考えられます。

②胚からの分泌物を有効利用
通常、胚を体外培養する際、培養皿(Dish)に培養液の小滴(drop)を作り、その中に胚を入れて培養しています。同じdrop内で胚を集合培養した方が、胚から分泌される成分をお互いに受けとることで良い影響を与え(これをパラクラインといいます)胚の発育が良くなることが知られています。しかし、受精方法の違いや正常受精が確認できたかどうか等によっては、個々の胚を見分けるために、同一のdrop内で培養することができません。そうすると、上記のような効果がうまく得られないことがあります。
タイムラプスに用いるDishは特殊な形状をしており、窪んだ部分に胚を入れ培養していきます。窪みの上部で培養液がつながっているため、個々の胚を区別しながら同一の培養液内で培養することができます。また、胚を窪みに入れるため、胚から分泌された成分が窪みにたまりやすく、これを自身が受け取ること(この作用をオートクラインといいます)で成長を促す効果も期待できると考えられます。

今年10月より、このタイムラプスをより広く皆様にご利用いただけるよう、これまでよりも低価格での提供を開始いたしました。かなりのご好評をいただいておりますが、こちらのタイムラプスには注意点もございます。それは同時に使用できる患者様の人数です。当院のシステムでは同時に最大15名までしかご利用いただけません。そして利用できるかどうかは採卵当日にわかります。そのため、お申込みいただいても採卵当日にお断りさせていただくことがございます。大変心苦しいのですが何卒ご理解ください。
当院ではこれからも、卵、胚にとって何がより良いのかを考えながら各手技の改善を行うことで、ご自身の赤ちゃんに出会うという皆様の願いの一助となれればと思います。