
体外受精とは、卵巣から取り出した卵子を体の外で精子と受精させ、育てた受精卵(胚)を子宮に戻して妊娠を目指す不妊治療です。
英語ではIVF(In Vitro Fertilization)と呼ばれ、人工授精などの一般不妊治療で妊娠に至らない場合や、卵管に原因がある場合などに選択されます。日本では2022年4月から公的医療保険の適用対象となり、現在では日本で生まれる子どものおよそ8.5人に1人が、体外受精を含む生殖補助医療(ART)によって誕生しています(日本産科婦人科学会・2023年データ)。
この記事では、体外受精の仕組み、どのような場合に選択されるのか、人工授精・顕微授精との違い、治療の流れ、最新の全国データにもとづく妊娠率、保険適用の条件までを順に解説します。
体外受精の仕組み|「体外」で行われるのは受精の工程だけ
まず、体外受精という治療で「体の外」で行われるのはどの工程なのかを確認しましょう。
体外受精という名前から「妊娠のすべてが体の外で行われる」と誤解されることがありますが、体の外で行われるのは「受精」とその後数日間の「胚培養」の工程だけです。受精卵(胚)は子宮に戻され、着床から出産までの経過は自然妊娠と変わりません。
受精の方法には、次の2種類があります。
- 通常体外受精(c-IVF):採取した卵子に調整した精子をふりかけ、自然な受精を待つ方法
- 顕微授精(ICSI):1個の精子を細い針で卵子に直接注入する方法
どちらの方法をとるかは、精子の状態や過去の受精成績などをもとに医学的に判断されます。
体外受精が選択される主なケース(適応)
「自分は体外受精の対象になるのか」は、多くの方が最初に知りたい点です。
日本産科婦人科学会では、体外受精(生殖補助医療/ART)は「これ以外の治療によって妊娠の可能性がないか極めて低いと判断される場合」や、「ARTを実施することが患者さんや生まれてくる子どもにとって有益であると判断される場合」を対象としています。
- 卵管性不妊:卵管の閉塞・癒着などにより、卵子と精子が体内で出会えない場合
- 男性不妊:精子の数や運動率が低く、人工授精での妊娠が難しい場合(重度の場合は顕微授精が選択されます)
- 免疫性不妊:抗精子抗体などにより、体内での受精が妨げられる場合
- 原因不明不妊:検査で明らかな原因が見つからず、タイミング法や人工授精を一定期間行っても妊娠に至らない場合
なお、実際には患者さんの年齢や不妊期間、子宮内膜症の有無、卵巣予備能などを総合的に考慮して、体外受精を選択するかどうかが判断されます。
体外受精と人工授精・顕微授精の違い
次に、体外受精が不妊治療全体のどの段階に位置づけられるのか、他の治療との違いから見ていきます。
不妊治療は、体への負担や介入の程度が小さい順に「タイミング法→人工授精→体外受精・顕微授精」と段階的に進めるのが一般的です。人工授精までを「一般不妊治療」、体外受精以降を「生殖補助医療(ART)」と呼びます。
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人工授精(AIH) |
体外受精(IVF)/顕微授精(ICSI) |
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分類 |
一般不妊治療 |
生殖補助医療(ART) |
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受精の場所 |
体内(子宮内に精子を注入し、卵管での自然な受精を待つ) |
体外(採取した卵子と精子を培養室で受精させる) |
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受精の確認 |
できない |
できる(受精・胚発育を直接確認) |
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主な対象 |
性交障害、軽度の精液所見不良など |
卵管性不妊、人工授精不成功、重度の男性不妊など |
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体への介入 |
比較的小さい |
採卵(卵巣から卵子を採取)を伴う |
体外受精の流れ|6つのステップ【図解】
体外受精は大きく6つのステップで進みます。採卵から妊娠判定までの流れを順番に見ていきましょう。

STEP1 卵巣刺激(排卵誘発)
月経開始後、内服薬や注射で卵巣を刺激し、複数の卵胞を育てます。刺激の強さには高刺激・低刺激・自然周期などの方法があり、年齢や卵巣機能(AMH値など)に応じて選択されます。期間はおよそ8~12日間で、この間に数回の通院で卵胞の発育を確認します。
STEP2 採卵・採精
卵胞が十分に育ったタイミングで、経腟超音波で確認しながら細い針で卵胞に穿刺し、卵子を採取します。所要時間は数分~十数分程度で、麻酔の方法は施設や採卵数により異なります。同じ日にパートナーの精子を採取し、運動性の高い精子を選別する調整を行います。
STEP3 受精(体外受精または顕微授精)
採取した卵子と精子を受精させます。精液所見が良好な場合は体外受精(c-IVF)、精子の数や運動率が低い場合や過去に受精障害があった場合は顕微授精(ICSI)が選択されます。
STEP4 胚培養
受精卵(胚)は培養室のインキュベーター内で2~6日間培養されます。受精後2~3日の「初期胚」、5~6日の「胚盤胞」まで育てるかは、胚の状態や治療方針により判断されます。
STEP5 胚移植(新鮮胚移植・凍結融解胚移植)
育った胚を細いカテーテルで子宮内に戻します。採卵と同じ周期に移植する「新鮮胚移植」と、胚をいったん凍結保存し、子宮内膜の状態を整えた別の周期に移植する「凍結融解胚移植」があります。日本では現在、凍結融解胚移植が主流であり、日本産科婦人科学会の2023年データでは、体外受精で生まれた子どものうち95.0%が凍結融解胚移植によるものでした。多胎妊娠を防ぐため、移植する胚は原則1個とされています(年齢や治療歴などの条件により2個までの移植が認められる場合があります)。
STEP6 妊娠判定
胚移植からおよそ1~2週間後に、血液または尿中のhCGホルモンを測定して妊娠を判定します。妊娠が成立した場合は、胎嚢や心拍の確認を経て、分娩施設での妊婦健診へ移行します。
体外受精の妊娠率|年齢による違いと全国データ
体外受精の妊娠率は年齢によって大きく異なります。全国データをもとに、実際の数字を確認しましょう。
日本産科婦人科学会(JSOG)が公表する「2023年ARTデータブック」(2025年8月公表・現時点で最新)によると、胚移植あたりの妊娠率は全体で39.0%です。ただし妊娠率は年齢によって大きく変わり、30代前半では約50%前後ですが、年齢とともに低下し、35歳で46.1%、40歳で33.3%、42歳で24.4%となっています。
あわせて、同データブックが示す日本全体の実施状況は次のとおりです。
- 総治療周期数:561,664周期(過去最多)
- 出生児数:85,048人(過去最多)。うち95.0%(80,774人)が凍結融解胚移植による出生
- 2023年の日本の総出生数(約72.7万人)に対し、およそ8.5人に1人が生殖補助医療によって生まれた計算

※ 出典表記「日本産科婦人科学会 2023年ARTデータブックより作成
なお、個々の医療機関が公表する妊娠率は、対象患者の年齢構成や集計方法(移植あたり/採卵あたり/治療周期あたり)によって数値が変わるため、単純な比較はできません。全国データとあわせて、集計条件が明示されたデータを参照することが大切です。参考として、当院における2023~2024年の治療成績では、4~6AA・BA・AB胚を移植した1,829周期を対象とした移植あたりの妊娠率は、30歳以下で52.9%、34~36歳で53.8%、43歳以上で15.5%でした。
体外受精の保険適用と費用の目安
体外受精は保険で受けられるのか、自己負担はどの程度かを整理します。
体外受精は2022年4月から公的医療保険の適用対象となり、条件を満たす場合は自己負担3割で治療を受けられます。保険適用には次の条件があります。
- 年齢:治療開始時点で女性が43歳未満であること
- 回数:胚移植の回数が、40歳未満は子ども1人につき通算6回まで、40歳以上43歳未満は通算3回まで
ただし、保険適用の場合でも自己負担額は一律ではなく、卵巣刺激の方法、採卵数、顕微授精の有無、胚凍結の有無などの治療内容によって変わります。1回の治療(採卵から胚移植まで)にかかる自己負担のおおよその幅は10~30万円です。また、高額療養費制度の対象となるため、所得区分に応じた自己負担上限額を超えた分は払い戻されます。保険適用の条件を満たさない場合や、保険診療と併用できない治療を選択する場合は自由診療となります。
体外受精のメリット
体外受精には、次のような医学的な特徴や利点があります。
- 受精の成立を直接確認できる:体内では確認できない「受精しているかどうか」を確かめられるため、不妊原因の把握にもつながります。
- 卵管に原因があっても妊娠を目指せる:受精と胚の輸送を体外で行うため、卵管の閉塞・癒着があっても治療が可能です。
- 胚を凍結保存できる:1回の採卵で複数の胚が得られた場合、凍結保存により採卵をくり返さずに複数回の移植に臨めます。
- 患者の状態に応じて受精方法を選べる:精子の状態などに応じて、体外受精(c-IVF)と顕微授精(ICSI)を選択できます。
いずれも、体外受精という治療の医学的な特性にもとづく利点です。
体外受精のリスク・知っておきたいこと
一方で、体外受精は医療行為である以上、次のようなリスクや負担も伴います。
卵巣過剰刺激症候群(OHSS)
排卵誘発剤により卵巣で多数の卵胞が発育した結果、血管の透過性が高まり、腹部膨満や腹水などが生じることがあります。重症化はまれですが、症状がある場合は早めの受診が必要です。
採卵に伴う痛み・出血
採卵は針を用いる処置のため、痛みや少量の出血を伴うことがあります。麻酔の使用により負担は軽減できます。
卵巣出血
採卵後に卵巣から出血することがあります。多くは自然に改善しますが、まれに止血などの治療が必要になる場合があります。
薬の副作用
排卵誘発剤の使用により、吐き気や腹部の張り、注射部位の痛みなどがみられることがあります。
多胎妊娠
複数の胚を移植すると双子などの多胎妊娠となる可能性が高くなります。多胎妊娠は早産や妊娠高血圧症候群などのリスクが高まるため、日本生殖医学会の見解では、原則として移植胚数は1個とされています。ただし、一定の条件を満たす場合には2個移植が認められることがあります。
身体的・時間的負担
通院回数が比較的多く、仕事との調整が必要になる場合があります。
こうしたリスクの程度や対処法は個人差が大きいため、治療前の説明で十分に確認することが大切です。
まとめ
最後に、体外受精とはどのような治療なのかをあらためて整理します。
体外受精とは、卵子と精子を体の外で受精させ、育てた胚を子宮に戻す生殖補助医療であり、卵管性不妊や男性不妊、人工授精では妊娠が難しい場合などに広く行われています。日本では2023年に生まれた子どものおよそ8.5人に1人が生殖補助医療によって誕生しており、保険適用により経済的な負担も以前より抑えられるようになりました。
治療の内容や妊娠率、保険適用の条件を正しく理解したうえで、医師と相談しながらご自身に合った治療方針を決めることが大切です。
体外受精の具体的な治療内容・スケジュール・費用については、以下のページで詳しく解説しています。
監修医師
宮﨑 薫みやざき かおる
はらメディカルクリニック理事長・院長
- 医学博士
- 日本産科婦人科学会認定 産婦人科専門医・指導医
- 日本生殖医学会認定 生殖医療専門医・指導医
- 日本内分泌学会認定 内分泌代謝科専門医
2004年慶應義塾大学医学部卒業、2013年慶應義塾大学大学院医学研究科修了。2013年4月東京歯科大学市川総合病院産婦人科助教 2014年4月慶應義塾大学産婦人科助教。2017年10月 USMLE(米国医師国家試験)Step1–3 合格。2017年10月ノースウェスタン大学産婦人科(米国シカゴ)研究助教授。2018年10月荻窪病院産婦人科勤務。2020年5月はらメディカルクリニック院長就任。2020年7月医療法人社団暁慶会理事長就任。
よくあるご質問
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回答
卵巣から取り出した卵子を体の外で精子と受精させ、育った受精卵(胚)を子宮に戻して妊娠を目指す不妊治療です。体の外で行うのは受精と数日間の培養のみで、着床以降の経過は自然妊娠と同じです。
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回答
人工授精では、精子と卵子が卵管内で受精し、受精卵が子宮まで運ばれる機能が必要になります。一方、体外受精では、体外で受精させた受精卵を確実に子宮に戻すことができるため、このプロセスがショートカットされ、妊娠率を高めることができます。
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回答
当院では、体外受精の成績について、卵巣刺激から採卵・受精・培養・胚移植まで、各プロセスごとに公開しています。妊娠率の詳細はこちらをご覧ください。
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回答
保険診療で体外受精を受けられるのは、治療開始時点で女性が43歳未満の場合です。43歳以上の方でも、自由診療で体外受精を受けることは可能です。
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回答
はい。2022年4月から体外受精は保険適用の対象となりました。
保険適用となるのは、治療開始時点で女性が43歳未満の場合です。また、お子さま1人につき胚移植の回数は、40歳未満で治療を開始した方は通算6回まで、40~42歳で開始した方は通算3回までとなります。なお、高額療養費制度も利用できます。 -
回答
日本産科婦人科学会の集計では、2023年に生殖補助医療で生まれた子どもは85,048人で、同年の総出生数のおよそ8.5人に1人にあたります。1983年の国内初の出生から2023年までの累計は100万人を超えています。
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回答
自己注射や採血、採卵などで痛みを感じることがあります。
当院では採卵の際に保険診療・自由診療ともに静脈麻酔を使用できるため、眠っている間に採卵が終わり、痛みを感じることはほとんどありません。採卵後は腹部に鈍い痛みや張りを感じることがありますが、多くは数日で軽快します。不安なことがあればお気軽にご相談ください。