不妊症・男性不妊・人工授精・体外受精・胚移植・AID・精子バンク等の不妊治療・不妊専門クリニック。
INTERVIEW
夫婦で決めた医療機関でのAID、過去の葛藤と現在の幸せ

今回は、無精子症のために第三者の提供精子によって家族をつくる選択をし、2人のお子さんを授かったラックさん(夫)とララさん(妻)に当院の鴨下医師が聞き手となり体験談を伺いました。ラックさんとララさんは国内の医療機関で7回人工授精(AID)を行っても授かりませんでしたが、例外的に体外受精に進み2人のお子さんを授かりました。(ラックさんララさんの医療機関名に関する問合せには応じられません。現在、当院では提供精子の体外受精を行っていますので本方法を希望する方は当院までお問合せください。)

妊活と不妊治療に至るまで

鴨下:まず、どのような経緯で不妊治療をスタートしたかお聞かせいただけますか?
ラック:私たちは、2017年に結婚して、春頃から妊活を始めたんですけど、どうもおかしいなと思い、近くの病院で検査を受けたところ精子が無いことが判明してそこから不妊治療が始まりました。
鴨下:お二人とも結婚してすぐにお子さんがほしいっていう家族像を持ってたんですか?
ラック:はい、そうですね。
鴨下:では、なかなかできない期間を経てっていうよりも割とすぐに病院へ行って、検査を受けたということなんですか?
ララ:そうですね。私の生理周期が40日くらいだったので、あんまり妊娠できそうにないのかもという不安もあって「まずは病院に行ってみよう」という気持ちで行きました。
鴨下:そしたら、ご主人の検査もしましょうみたいな流れになったんですか?
ララ:そうです。男性の方も早めにやったほうがいいですよって言われて、そのまま精液検査してって感じですね。
鴨下:診断結果を聞いた時はどういうお気持ちでした?
ララ:私は無精子症っていうのを知らなかったので、驚きで時が止まる感じでした。それと同時に、自分はもう子どもが持てないんだっていう絶望的な感じもありました。結婚したら、子どもを授かることが普通の流れだと思っていたので、それができないと思うとすごく悲しかったです。
鴨下:ラックさんはどうでした?
ラック:すごいショックでしたね。ショックというか「えっ…?」って感じで、ほんとに。あるものだと思ってたんで、まさかゼロって。
鴨下:TESE(精巣内精子採取術)は男性にとっては負担のかかる手術だったりすると思うんですけど、TESEをして確かめようという強い想いがあったんですか?
ラック:そうですね、その強い想いはありました。
鴨下:TESEで結果が出て、精子がいないって判明してからいろんな選択肢があるじゃないですか。精子提供っていう方法だったり、特別養子縁組、そして、2人で生きていくっていう道もあると思うんですけど、AIDを選択するまでにどういう経緯がありましたか?
ララ:その3つの選択肢について2人で話し合う中で、私はAIDと特別養子縁組のどちらかを希望していて、2人で生きていくことは考えていなかったです。自分自身で妊娠・出産をしたいって気持ちはあんまりなかったし、血が繋がってる子がほしいとかも別になくて、2人で子育てがしたかったので、私的にはAIDと特別養子縁組はどちらも良いと思っていました。
ラック:私の方は、やっぱり自分とは血が繋がっていなくても妻と繋がっててほしいという想いがあったので、AIDが良いと思っていました。
鴨下:そのラックさんの考えを聞いてララさんはどう思いましたか?
ララ:それじゃあ、AIDにしようっていう感じでした。無精子症を理由に、意見を言いにくいとか、上下関係ができるのが私はすごいイヤで、意見を尊重したいと思いました。
鴨下:ララさんがそういう風に思ってくれるって、ラックさんどうですか?やっぱり自分を責めちゃうじゃないですか、最初は。
ラック:そうですね。
鴨下:私はたくさんのご夫婦とお会いしていますが、やっぱり妻が夫を責めちゃうことって結構あるんです。でも「自分を責めなくていいよ」とはっきり伝えることはすごい大事だし、足並み揃えやすいですよね。
ララ:自分自身が傷ついているところに、妻が夫を責めてしまったら、心の拠り所がなくなっちゃうなって思ってました。お義母さんも「自分の息子(の精子)がなくてごめんね」って自分のことを責めてたんですよね。でも、別にお義母さんも悪くないじゃないですか。なので、別に誰も悪くないのになってすごくモヤモヤしていました。

医療機関での提供精子の医療を選択した理由

鴨下:AIDを7回しても妊娠せず、体外受精に移って、すぐに妊娠されました?(注:ララさんの医療機関は当時、例外的に提供精子の体外受精をすることが可能でした)
ララ:初めて採卵した時は、受精卵の数も3個とか少なかった上にグレードもかなり低くて、全部無くなってしまったんです。それで、心が折れてやめようかと思ったんですけど、先生から「1回じゃ分からないよ」って言われて、2回目の採卵をしました。2回目の時は8個も受精卵ができて、グレードも1回目の時と比べるとかなり良いものばかりだったんですよ。
鴨下:体外受精も100%ではないので、1回でうまくいかないことも確率的には一般的ですが、落ち込みますよね。
ラック:失敗した時は「あれ…体外受精でも無理なんかな…」って思ってて。
ララ:もう養子縁組にしようかって説明会にも行って、結構本気で考えたんですけど、もう1回やってみよっかってなったんだよね。
ラック:年齢的なところで今しかできないと思ったので。
鴨下:周期を変えて採卵したっていうのは本当によかったですね。それで結局お二人授かったんですもんね。ちなみに第一子も第二子も同じドナーさんですか?
ララ:はい、ちょうど同じ方からの体外受精で凍結してたもので妊娠したので。
鴨下:現在、医療機関でのAIDだとどうしても夫婦がドナーさんを選べない状況が多いので、SNSで提供者を探す方もいらっしゃいます。お二人が医療機関で提供精子の治療を受けようと考えた理由と、SNSといった個人間の提供精子を選択しなかった理由をお聞きしても良いですか?
ララ:SNSはもう一切考えてないよね?
ラック:考えてない。検討もしてないね。
ララ:個人間でやり取りした精子提供者さんの身体の特徴や病気の情報が嘘だったという問題も耳にしたことがありましたし、絶対に病院の方が安全だと考えていたので、病院一択でした。
鴨下:SNSを利用するご夫婦から話を聞くとやっぱり夫婦でドナーさんを選べることでより納得ができるとか、あとは契約によっては、連絡を取り続けられるとか、あとは第二子を考えた時に、また同じ方から提供が確実にもらえるとか、そういったメリットをおっしゃったりするんですよね。やはりそれよりもよく分からない人へのリスクがお二人の場合は、前提にあったということですか?
ララ:そうですね。ちょっと怖いです。
鴨下:ラックさんも同じ考えですかね。
ラック:そうですね、はい、同じ考えですね。
鴨下:メリットはありますけど、リスクの方がSNSは多いと感じています。当院もできるだけSNSなどのアンダーグラウンドに流れていかないようにするために、きちんとした体制で提供していきたいと思っているので、今年の1月からドナーさんご自身で非匿名(子どもが提供者を知ることができる)と匿名(子どもは提供者を知ることはできない)を選べるようにしたんですね。いざフタを開けてみたら、選ぶのは非匿名の方を選ぶ方が多いんですよ、今のところ。
ラック:それは意外ですね。なぜですか?
鴨下:当院は非匿名と匿名の違いもドナーさんに丁寧に説明をしていて、非匿名でもドナーの権利がしっかり守られていることや、ドナー情報が無条件で子どもに亘るわけではないことをお伝えしているからだと思います。

提供精子で姉妹を授かってみて

鴨下:お子さんに対して告知のようなものはもう始めてますか?
ララ:いや、まだ始めてないんです。そろそろ3歳くらいになってから徐々に始めようかなと思っているので、情報収集をしないといけない段階ですね。
鴨下:告知をして、子ども達はそれを理解した上で生きていくにあたって医療機関や社会全体に対してこうあってほしいや、こう変わってほしいという要望はありますか?
ララ:もっと社会の理解を深めてほしいですよね。うちの親も無精子症とか知らなかったんですけど、告白した後に、テレビで無精子症の特集を観て、こんなことやってたよって言われたこともあったんです。知ったからこそ、そのテレビも自分の目に留まったんじゃないかと思うので、もっと理解してもらえるような社会になれば嬉しいです。
ラック:あと、まだまだAIDに対する日本社会の対応が遅いと思っていて、やっぱり金銭面かな。ほぼ100%自費診療だったので、金銭面がネックでAIDを諦めてしまう人がいると思うので、保険適応にしたり、負担額を減らしてもらいたいと思いました。
鴨下:ララさんと、ラックさんの提供精子のドナーさんは匿名(子どもが精子提供者を知ることはできない)なんですか、非匿名(子どもが精子提供者を知ることができる)なんですか?
ララ:匿名です。でも実は、無精子症が発覚した初期の頃に親族提供を考えていて、お義父さんに提供してもらえないかなっていう相談をしていたんですよね。親族提供だったら、この人がドナーさんだよって子どもに言ってあげられるのは、大きいかなって思っていたんです。
鴨下:確かに匿名っていうところで、これからの告知に対しても課題があるとは思います。ただ、親族提供の海外事例の場合、告知したことで子どもはそこ(親族提供者)に父親を求めてしまって、ドナーという第三者と、お母さんとお父さんを分けて理解することがなかなかできずに、より家族関係が難しくなるといった報告もあったりするので、メリットとデメリットが両方あって難しいですよね。
ラック:今考えると確かにそういうケースも考えられるので、親族提供じゃなくても良かったかなってちょっと思ってます。最初は親族提供って言ってたんですけど、ちょっと考え方が変わりました。いろいろ調べていくうちに。
鴨下:同じ境遇の方に対して経験者として何か伝えたいことがあったら、教えていただきたいです。
ララ:私たちはAIDが一番良いと思ってAIDを選びましたが、誰にとってもAIDが1番良い選択とは限らないので、夫婦でたくさん話し合ってほしいと思います。
ラック:やっぱり同じ境遇として無精子って判ったら、結構落ち込むとは思うんですけど、これからどうしようっていう時に、方向性を2人ですごい擦り合わせることができて、納得して精子提供という選択ができたんですよね。だから真剣に将来について話すことができたのは、すごい良かったなって思います。
ララ:そうそう、めっちゃ絆は深まりましたね。あと、無精子症じゃなかったら、自然妊娠できてたかもしれないですけど、無精子症だったからこそ、今いる子ども2人に会えたことに感謝しています。
鴨下:そう考えると親子って結局出会いじゃないですか。それは自然妊娠だろうが、提供配偶子であろうが、最終的に「またとない出会い」と考えれば、出会ってしまった今は、もうこれ以外の方法は考えられないですよね。ドナーさんに対して想いなどはありますか?
ララ:もう子どもが持てないんだと絶望していたときに、AIDのことを知り希望の光が差したような気になりました。
2人の子どもに恵まれ、理想の家族像を手に入れることができ、ドナーさんには感謝しかないです。
ラック:ほんとに感謝しかないですね。多分最初は提供することにハードルを感じる人もいると思うので、そういうのを取っ払って提供してくれた方にはすごく感謝の気持ちでいっぱいですね。

文:髙見すずは 写真:松本 理恵子 (一部) 編集:平藤篤(MULTiPLE Inc.)

PROFILE

ラック(40)&ララ(33)

夫・ラックは空調機器の開発企業に勤務しており、現在はテレワーク中心の生活。妻・ララは研修会社に勤務しており、現在は育児休暇を取得している。2017年に結婚し、同年春頃から妊活を始めたものの違和感があったため、病院を受診。その結果、夫・ラックの無精子症が判明し、不妊治療を開始。医療機関でのAIDを経て、体外受精に移行し、匿名の同一ドナーによる精子提供にて2歳違いの姉妹を妊娠・出産。

鴨下副院長(聞き手)

医学博士 日本産婦人科専門医 生殖医療専門医 日本がん・生殖医療学会認定医がん・生殖医療ナビゲーター。2007年東京医科大学医学部医学科卒業。 2009年東京慈恵医科大学産婦人科教室入局、2010年東京慈恵会医科大学産婦人科教室助教、2012年東京慈恵会医科大学附属病院 生殖内分泌外来 2014年聖マリアンナ医科大学産婦人科教室にて、卵巣組織凍結、がん・生殖医療の臨床及び基礎研究に従事、2016年東京慈恵会医科大学付属病院にて生殖内分泌外来、がん・生殖医療の外来担当。2020年国立がん研究センター東病院にてがん・生殖医療外来を新設、専任。2021年9月よりはらメディカルクリニック勤務。著書に『誰も教えてくれなかった卵子の話』(集英社、2014年、共著)

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