不妊症・男性不妊・人工授精・体外受精・胚移植・AID・精子バンク等の不妊治療・不妊専門クリニック。

精子提供によるAID・IVF-Dとは?対象・治療の流れ・費用・出自を知る権利について解説

不妊症の検査・治療

無精子症や、トランスジェンダー男性とのご夫婦で、「自分たちは子どもをもてない」と思い悩まれている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、夫に精子がない場合でも、第三者の精子を使った人工授精(AID)や体外受精(IVF-D)によって妊娠・出産を目指すことが可能です。

これらの治療は、日本産科婦人科学会により認められている医療行為であり、当院も学会に登録された施設として、適切な体制のもとで実施しています。

一方で、AIDやIVF-Dは、子どもに対して精子提供の事実をどのように伝えるかという点で、ご夫婦に深い理解と話し合いが求められる治療でもあります。子どものアイデンティティや権利を尊重する姿勢がとても大切です。

このページでは、AID・IVF-Dの違いや、対象となる方、治療の流れ、費用、提供者情報、出自を知る権利などについて詳しく解説します。男性不妊に悩むご夫婦や、精子提供による治療を検討中の方は、ぜひ参考にしてください。

目次
  1. AID・IVF-Dの対象となる方
  2. 精子提供による人工授精(AID)と体外受精(IVF-D)の基礎知識
  3. 当院で精子提供による人工授精と体外受精をうける条件
  4. AIDとIVF-D実施までの流れ
  5. 治療にかかる費用
  6. AID・IVF-Dで妊娠・出産したら
  7. 精子提供者(ドナー)について
  8. 子どもの出自を知る権利について
  9. 提供精子による治療のFAQ
  10. まとめ
AID・IVF-Dに関する情報は、すべて勉強会で詳しくご説明しています。治療を検討中の方や、情報収集中の方は、まず最初に「AID・IVF-D勉強会(4時間)」へご参加ください↓

1.AID・IVF-Dの対象となる方

精子提供による生殖補助医療(AID・IVF-D)は、日本産科婦人科学会の会告に基づき、以下の条件を満たす方が対象です。

  • 法的に婚姻している夫婦であること
  • 男性が無精子症などにより、医師が第三者の精子提供以外に妊娠の方法がないと判断した場合
  • トランスジェンダー男性とシスジェンダー女性の法律上の夫婦

※事実婚カップル、同性カップル、独身女性(選択的シングルマザー)などは、学会会告の対象外であるため、当院では治療を行っておりません。

2.精子提供による人工授精(AID)と体外受精(IVF-D)の基礎知識

精子提供を用いた不妊治療には、人工授精(AID)と体外受精(IVF-D)の2つの方法があります。

AIDIVF-D
方法精子提供による人工授精(子宮内に精子を注入)精子提供による体外受精(顕微授精した受精卵を子宮に移植)
受精場所妻の子宮内(体内受精のため、実際に受精したかどうかは確認できない)体外(培養士が卵子と精子を顕微鏡下で受精させる)
妊娠率約4~9%約40%
特徴身体的負担が少なく、費用も通院回数も少なめ当院は日本産科婦人科学会の登録施設として、全国で唯一IVF-Dを実施

以下に、AIDとIVF-Dについて、それぞれ説明します。

2-1 AIDとは?

AID(Artificial Insemination by Donor)は、提供された精子を使った人工授精です。無精子症などの絶対的男性不妊や、トランスジェンダー男性との夫婦など、夫が精子を持たない場合に行われます。妻の卵子と提供精子によって妊娠を目指します。

AIDの流れ

  1. 排卵日の確認(月経10〜12日目頃):超音波検査などで排卵日を確認し、AID実施日を決定します。
  2. AID当日、提供精子を融解・注入:凍結保存していた提供精子を融解し、妻の子宮内に注入します。必要に応じて薬を処方します。
  3. 妊娠判定:月経予定日を過ぎてから妊娠判定を行います。

2-2 AIDの妊娠率

当院でのAIDの妊娠率は以下のとおりです。

AID1~3回目AID4~6回目
37歳以下15.3%5.6%
38歳以上4.2%0.0%
2023年AID妊娠実績

AIDの妊娠者数は、1~3回目が一番多く、4回目以降は減少します。AIDは、提供精子を子宮に注入する人工授精であり、体外受精のように受精を直接確認できるわけではありません。そのため、妊娠率はおおむね4~9%と、体外受精より低めです。

なお、一般的な夫婦間の人工授精でも妊娠率は5~10%とされており、AIDも同程度の成績です。人工授精は医療介入が比較的少ないため、女性側の卵管機能や排卵が重要になります。

2-3 IVF-Dとは

IVF-D(In Vitro Fertilization with Donor sperm)とは、提供精子を用いた体外受精です。
無精子症などによる絶対的男性不妊や、トランスジェンダー男性とのご夫婦など、夫が精子を持たない場合に、妻の卵子と提供精子を体外で受精させる方法です。受精方法は、顕微授精(ICSI)です。

AIDと異なり、体内ではなく体外で受精を行うため、受精卵を確実に子宮に移植することができることから、妊娠率が高いのが特徴です。

2-4 IVF-Dの妊娠率

当院におけるIVF-Dの妊娠率は、現在集計中ですが、提供精子は厳しい基準を満たした良好なものを使用しているため、一般的な夫婦間の体外受精よりも妊娠率はやや高く、流産率は低い結果がでています。そのため、出産まで至る確率は高いと考えられます。

3.当院で精子提供による人工授精と体外受精をうける条件

3-1 ガイドライン

当院における、精子提供の生殖補助医療(AID、IVF-D)は、すべて以下のガイドラインに定められています。ご一読ください。

3-2 AID・IVF-Dの治療をうける条件

精子提供によるAIDやIVF-Dは、子どもが生まれてきた過程を知らずに育った場合にアイデンティティの喪失等の恐れのある治療です。そのため、不妊であればだれでもできるというわけではなく、適用条件が定められています。

基本的な12の条件

夫婦が当院で精子提供による生殖補助医療をうけるためには、(1)~(12)の全てを満たしている必要があります。

(1)日本国籍を有する国内外に居住する日本人で、公的書類(住民票など)により夫婦の現住所を証明できること。また、日本国籍を有していない場合は、日本国の住民票により現居住地が日本国内にあることを証明できること。

(2)法的に婚姻していることが確認できる夫婦。

(3)年齢の条件は次の通りとする。夫婦のどちらかが制限年齢に達した時点で治療は終了します。治療継続中、凍結胚がある場合でも同様です。

女性男性
初診来院日41歳まで(42歳の誕生日の前日まで)47歳まで(48歳の誕生日の前日まで)
初回AID実施日42歳まで(43歳の誕生日の前日まで)48歳まで(49歳の誕生日の前日まで)
初回IVF-D採卵日42歳まで(43歳の誕生日の前日まで)48歳まで(49歳の誕生日の前日まで)
最終治療可能日44歳まで(45歳の誕生日の前日まで)50歳まで(51歳の誕生日の前日まで)

(4)精子の提供を受けなければ妊娠できない医学上の理由がある場合

  • 精子が存在しない、または、精子に受精能力がないことを明確に判断できる場合
  • 精子に受精能力がないことを明確に判断できないが、推定される場合

上記の精子の状態については、担当医にご記入いただく「精子提供による生殖補助医療の医療情報提供書」を基に当院にて判断します。

(5)夫婦ともに既往歴や現在治療中の疾患は、当院の医師に診察の際伝えること。女性はBMIが30未満であること

(6)無精子症であることを受容している夫婦であること
無精子症であることや夫婦の配偶子による子どもを授かれない現実を十分に悲しんだプロセスを夫婦で共有していること。また、現在はこれを乗り越え、夫婦はお互いに正直な意見を遠慮なく伝えあえること。

(7)第三者の精子提供により家族を形成すること、また、AID・IVF-Dの治療方法を肯定的に受容している夫婦であること
夫婦がAID・IVF-Dといった第三者の精子提供による治療方法を真に肯定的に受け入れることは、この治療で最も優先されるべき『子どもの福祉』に直結します。生まれてくる子どもに対して、精子提供で生まれたことを伝えることはこの治療の基本であり、夫婦は子どもに対し、精子提供者の情報を隠さず、知り得る範囲で正しく伝える必要があります。子どもが自分の出生に関する事実を理解し、肯定的に受け入れられるような環境を家族内で築くことが重要です。家族内でのコミュニケーションを大切にし、この治療自体や精子提供者に関する話題をタブー視しないような成育環境を作ることが必要です。

(8)出自を知ることは生まれてくる子どもにとって基本的な権利であり、親から子どもへの告知は当然必要なことであると自ら考えている夫婦であること。
告知をすることはこの治療の基本だと当院は考えています。しかし、告知はすればいいというものではなく、「子どものための」「安全な」告知であるべきです。当院で治療をするために夫婦の信念を曲げて告知をすることは、子どものためにならず、危険な告知となる可能性があります。告知をしない方がよいと考える夫婦や、告知をするかどうか迷っている夫婦の考えは尊重されるべきです。その考えを共有できる医療機関を選択してください。

(9)妊娠中から告知の準備や練習をはじめ、子どもが生まれたらすぐに告知を開始することの重要性が理解できる夫婦であること。子どもが3〜4歳頃には出自に関して一定の理解を持つことが出来るようになり、6歳までには精子提供で生まれた事実を自覚できることを目標に、告知を進めることを約束できること。*定型発達をしないお子様もいるので、この方法で進めてみて難しいケースはその都度ご相談ください。
子どもの発育を待って告知をすれば、理解が早いというメリットは確かにあります。しかし成⻑を待っている間に、子どもは無意識のうちに『親=血がつながっている』という理解を社会生活の中で自然と身に付けている可能性が高くなります。その認識を持った後に告知を行うと、『父親とは血がつながっていない』という否定の言葉で告知が始まってしまいます。自分の考えていた『当たり前』が否定されたとき、人は衝撃と不安を感じます。それは子どもであっても同様です。精子提供による治療で家族になったことは、大切なこの家族が出来た重要な真実であり、家族の根幹です。生まれた時から始まる『大好きだよ』という愛情のコミュニケーションの一環として、『家族が出会った大切な物語を伝えること』が告知であると考えられるご夫婦は当院で治療してください

(10)子どもが自らの出自を肯定的に捉えながら成⻑出来る環境を事前に整えるため、第三者の精子提供で家族をつくることや、告知をしながら育児することへの理解と同意を、子どもと夫婦にとって身近な家族から得られていること。
各家族のそれぞれに固有の背景や問題があることは理解していますが、子どもの福祉が最優先です。子どもにとって根底となる出自について、身近な家族のこの人には秘密で、この人には言って良いなどと言うダブルスタンダートは子どもを混乱させる恐れがあります。身近な家族の最小単位として最低限、夫婦の両親の理解と同意を得る努力を試みてください。子どもの成育環境において身近な家族の理解や同意が得られない場合は、そのことが告知しない理由や告知が先延ばしとなる原因とはならない方法を夫婦で話し合い、面談の際に心理士やSWに共有してください。

(11)当院の倫理委員会にて精子提供による生殖補助医療を実施する承認を得られた夫婦

(12)夫婦の夫は、最新の情報に更新された運転免許証あるいはマイナンバーカードを有しており、AIDとIVF-D胚移植の度にeKYC(オンライン本人確認)を実施できること。

IVF-Dの追加条件

精子提供による体外受精(IVF-D)を実施する場合は(1)~(12)に加えて以下(13)の条件を満たしている必要があります。

(13)妻側に、加齢以外を原因とする体外受精を受ける医学上の理由がある場合

  1. 女性に体外受精を受ける医学上の理由として、AIDを3回以上実施したが、出産に至っていない方。
  2. 過去1年以内のAMHが1.0未満(複数回分ある場合は最も値が低いものを採用)、片側卵管 閉塞(切除)、女性の年齢が40歳以上、両側卵管閉塞(切除)のうちいずれか1つ以上に該当し、医師が体外受精が必要と判断する方。

トランス男性とシス女性のご夫婦の条件

トランスジェンダー男性とシスジェンダー女性のご夫婦(以下、当該夫婦)については、前述の(1)~(13)に加えて、次の①~⑦の条件も適用されます。

① 治療を実施する医療機関として、当院が配慮すべき子どもの出自を知る権利は、「精子提供による出自」の部分です。そのため、精子提供で生まれたことを告知することは当然必要なことだと考える夫婦を治療の対象とします。

②なぜ夫に精子がないのかについては、がんなどの病気、事故、先天的な要因、トランスジェンダーなど、様々な理由があります。これは夫本人の物語であり、「誰に話すか」「話さないか」「いつ話すか」を決める権利は夫自身にあります。
精子提供による出自について、子どものための安全な告知ができていれば、子どもが後から夫の事情を知った場合でも、子どものアイデンティティが崩壊するという事態にまで至る可能性は低いと考えています。なお、どの家族にもそれぞれの事情があり、その事情について子どもにどこまで知る権利があるのかを、当院は判断する立場にありません。

③子どもは、なぜ父親に精子がないのかを知りたがるかもしれません。また、物心がついてから知ることで衝撃を受けるかもしれません。このような可能性が少なからずあることを踏まえ、当院は、夫本人が子どもに安全にカミングアウトできる支援が重要と考えています。ただし、当院がカミングアウトを強制することは決してありません。

④夫がトランスジェンダーであることについて、当面の間、子どもにカミングアウトしない場合は、それを子どもに知られることを避けるために、精子提供について「子どもに告知しない」、あるいは、「告知を先送りする」ことにならないような告知計画を具体的に考えてください。

⑤入浴やプールの着替えなど、日常生活の中で、父親の外性器の形について子どもが疑問を持つ可能性があります。そのような場面では子どもに対してどのように対応するのか、夫婦は具体的な方法の検討が必要です。

⑥子どもへのカミングアウトをしない場合、または将来的にカミングアウトを行う場合、その期間における父親と子どもの触れ合いにおいて、真実を知られることへの不安から子どもとの関係が疎遠にならないよう、夫婦の具体的な行動指針の検討が必要です。
「子どもに聞かれたら話す」とお考えになるご夫婦もいますが、子どもは家族に何か秘密があると感じても、親には聞けない場合が多く、それは結果として親子関係を疎遠にする要因となります。このような事態を防ぐため、夫婦が考える具体的な対応方法についてカウンセリングで確認します。

⑦将来、子どもへカミングアウトする場合の伝え方について、カウンセリングにて確認し支援します。
子育てをしているトランスジェンダー男性とシス女性のご夫婦から、子どもにトランスジェンダーであることを知られずに子育てすることは不可能に近いという体験談を伺っています。「言わなければ知られない」「子どもは気付かないだろう」という考えは、実際には楽観的かもしれません。

当院では1997年より精子提供による生殖補助医療を行ってきましたが、当該夫婦への治療提供を開始したのは2022年1月からです。この時点では、トランス男性とシス女性を対象とした生殖補助医療に関する国内の先行研究がなかったため、まずは診療実績を積み重ねたうえで、2024年より方針の策定に着手しました。同年末にはパブリックコメントを実施しました。トランス男性、トランス男性の妻を含む当事者の方々から、貴重なご意見や経験が寄せられています。これから治療を始めるご夫婦にとっても非常に参考になる内容のため、ぜひご覧ください。

▶こちらの「目次4.改定案へのご意見の集計と公表」参照

4.AIDとIVF-D実子までの流れ

  1. 「AID・IVF-D勉強会」に参加する【必須】
  2. 上記1.の勉強会でお知らせするURLから初診登録をする
  3. 必要書類を当院へ提出
  4. 初診来院:診察、検査、学習資料のお渡し
  5. 夫婦でこの治療について学習する
  6. カウンセリング
  7. 倫理委員への申請
  8. 精子提供による生殖補助医療の開始

所要期間について:1の勉強会参加後、治療を進めるかどうか、また当院で治療を行うかどうかは、ご夫婦でじっくりご相談ください。2の初診登録に期限はありません。

4の初診以降の進行ペースはご夫婦によって異なりますが、スムーズに進めた場合は初診から約1.5〜2か月程度で治療に進むことも可能です。一方、数年単位で時間をかけて進めることもできます。

4-1「AID・IVF-D勉強会」に参加

当院で精子提供による生殖補助医療を検討するご夫婦は、必ず「AID・IVF-D勉強会」にご参加ください。この勉強会では、無精子症の当事者・医師・臨床心理士の3名が登壇し、治療の医学的・倫理的な背景や現実的な課題、具体的な治療の進め方や通院方法について、約4時間かけてお話しします。ご夫婦には、ワークを通じてそれぞれの思いや考えと向き合っていただきます。

勉強会は、偶数月の第3木曜日に開催しています(一部例外あり)。以下のバナーよりご確認ください。

4-2 初診登録

勉強会に参加された方に[精子提供における生殖補助医療の初診登録]を行うためのURLを配信します。当院での治療を希望する場合は、必要事項を入力して初診登録を行ってください。

4-3 書類の提出

精子提供による生殖医療の適用条件を満たしているかどうかを確認しますので、次の書類を当院までお送りください。

①夫は、精子提供による生殖補助医療の医療情報提供書【男性用】
②妻は、AID・採卵・胚移植のいずれかを行っている場合、あるいは、片側卵管閉塞・両側卵管閉塞の場合は、
精子提供による生殖補助医療の医療情報提供書【女性用】
精子提供による生殖補助医療を受けるための申請書
④法的に婚姻を確認できる発行から3か月以内の公的書類(日本人の場合は戸籍謄本)、夫婦が同じ国籍の場合は書類は1枚。夫婦が異なる国籍の場合はそれぞれの母国での書類1枚ずつ計2枚必要。日本語・英語・中国語以外の書類の場合は、翻訳機関にて日本語か英語への翻訳を行い、原本と一緒に提出。 
⑤夫婦それぞれの顔写真付き身分証明証のカラーコピーを夫婦それぞれ1枚計2枚
⑥3か月以内の住民票。海外に居住している方はお電話にてお問合せください。
⑦女性から男性に性別変更をされた方は、変更前の性別が記載された公的書類(①の提出は不要)

送付先
〒151-0051 東京都渋谷区千駄ヶ谷5-8-10はらメディカルクリニック倫理委員会申請書類管理係宛
*お送りの際は、簡易書留や宅急便などの送付記録が残る方法をご利用ください。普通郵便などの記録が残らない方法で送付された場合には未着時の責任は負いかねますのでご了承ください。

4-4 初診来院・診察・検査・学習資料のお渡し

書類の提出に不備がない場合は、当院より初診予約のご案内メールを送信します。ご都合に合わせて初診日をご予約ください。

①お持ちもの・ご提出書類の確認
婚姻関係申告書
・ご夫婦それぞれの健康保険証
心理カウンセリング同意書[精子提供の生殖補助医療]

②ご予約方法、通院、治療に関する説明
③医師の問診
④精子提供による生殖補助医療に関する学習資料の購入
⑤妻と夫の検査
・妻の検査
 感染症と甲状腺検査として、HBs抗原、HCV抗体、RPR、TP抗体、風疹HI抗体、クラミジアPCR、TSH、FT4、HIV、HTLV-1抗体(PA)、AMHの項目を検査
・夫の検査
 血液型検査のための採血 (AIDを実施する施設で血液型を検査する必要があるためです)

妻の検査については、1年以内に実施した他院の検査結果がある場合はそれを適用できます。夫の血液型は必ず実施します。

初診日には、ご夫婦で取り組むための学習資料のファイルと、書籍、冊子をお渡しします。

4-5 夫婦で行なう学習

夫婦が精子提供の医療の特性を理解し、生まれる子どもの福祉を大切にできるような支援プログラムを用意しています。

■書籍

①AID 家族になるということ(著者:すまいる親の会)

②AIDで生まれるということ 精子提供で生まれた子どもたちの声(著者:非配偶者間人工授精で生まれた人の自助グループDOG: DI Offspring Group, 長沖 暁子)

③大好きなあなただから、真実を話しておきたくて 精子・卵子・胚の提供により生まれたことを子どもに話すための親向けガイド(著者:オリビア モンツチ 翻訳:才村 眞理)

■動画

AIDで授かる子どもと幸せな家族を築く(社会福祉士:才村眞理先生)

■ワークシート

4-6 カウンセリング

夫婦で行なう学習が終わり、十分な話し合いを経て、この治療を受けることを決意した場合は、カウンセリングにお進みいただきます。

<カウンセリング時の持ち物>オンラインの場合は2日前に到着するよう郵送
①ワークシート(AID、IVF-Dの勉強会に参加した方にのみ内容をお伝えします)
精子提供による生殖補助医療の同意書

カウンセリングでは、夫婦が精子提供で生まれた子どもと、どのように家族を形成していくのかについて具体的に伺います。また、必要なカウンセリングの回数は夫婦により異なります。1回で終了する夫婦もいれば、数回必要とする夫婦もいます。

4-7 倫理委員会へ申請

ご提出いただいた書類やカウンセリング記録をもって当院側で倫理委員への申請を行います。

倫理委員会での審議の結果はカウンセリングから21日以内に事務局からご夫婦へメールまたは文書にて通知します。

承認の場合は治療を開始。非承認の場合は再申請できないため終了。

4-8 精子提供による生殖補助医療の開始

倫理委員会で承認された後は、精子提供による生殖補助医療を開始します。方法は2種類あり、非配偶者間人工授精(AID)と非配偶者間体外受精(IVF-D)です。いずれも妻の排卵日を管理しながら行います。

5.治療にかかる費用

6.AID・IVF-Dで妊娠・出産したら

6-1 AID・IVF-D妊娠卒業後面談

妊娠9週〜20週の間に、ご夫婦そろって「AID・IVF-D妊娠卒業面談」を受けていただきます。この面談は、臨床心理士またはソーシャルワーカーが担当します。

  • お子さんの精子提供者に関する周辺情報の開示:身長、体重、体の特徴、血液型、趣味特技、職業、精子を提供した理由、親のルーツ、病歴
  • 告知支援:事前にご提出いただいた「告知計画書」をもとに、提供者情報を取り入れたお子さんへの伝え方について具体的にサポート

6-2 AID・IVF-Dで妊娠予後の報告は3ヵ月以内

AID・IVF-Dで妊娠予後の連絡は必須です。出産・流産・死産・人工中絶から3ヵ月以内に専用フォームにてご報告ください。

6-3 出産後3か月以内に戸籍謄本を提出

AID・IVF-Dの出産から3ヵ月以内に生まれた子どもが記載された戸籍謄本を提出してください。当院はこの提出をもって、生まれた子どもは当院の精子提供の生殖補助医療によることを認定します。戸籍謄本の提出が無い場合には、もし、将来子どもから申し出があった場合でも、その子が当院の精子提供の生殖補助医療以外の方法で生まれたことを否定できないため、これを認めることはできません。

6-4 精子ドナーへのメッセージ

AID・IVF-Dでお子さんが誕生したら、精子提供者(ドナー)さんにメッセージをお送りいただくことができます。ドナーが非匿名の場合、このメッセージを当院からドナーへ直接お伝えします。匿名の場合は、本サイトを通じて、ドナーへの定期配信の際に届けられるようにしています。

▶ご夫婦から精子ドナーへのメッセージ

6-5 当事者家族の会での継続的な支援

当事者家族の会は、精子提供による生殖補助医療(AID、IVF-D)を通じて生まれた子どもとそのご家族を、はらメディカルクリニックが継続的に支援するための取り組みです。具体的には、絵本作成会・親子会・子ども会という3つの活動を通じて、当事者同士がつながり、支え合える場を大切にしています。

▶精子提供(AID・IVF-D)を通じた家族のつながり|当事者家族の会

6-6 AID・IVF-D治療再開面談

AID・IVF-D治療中または倫理委員会での承認を得た後、2年以上の中断があった場合、または出産を挟んで治療を再開する場合は、夫婦一緒に「AID・IVF-D治療再開面談」を受けください。方法は、対面もしくはオンラインです。費用はかかりません。

7.精子提供者(ドナー)について

精子提供による生殖補助医療は、精子提供者があってはじめて成り立つ医療です。提供者は、ご夫婦のこれまでの苦労や、子どもをもちたいという気持ちを理解し、協力してくださる人たちです。精子提供の平均年齢は34.2歳、スクリーニング検査は精液検査、DFI検査、感染症、染色体検査、心理検査(MMPI-3)、面談、家族歴と多いこともあり、ドナー採用率は約31%です(応募者の約7割は検査や面談により非採用)。、精子提供者の条件などの詳しい内容は「精子提供」という説明PDFをご覧ください。

▶ドナーインタビュー【スズキさん】ドナーが語る、精子提供における医療機関の役割

▶ドナーインタビュー【ヤマダさん】精子提供ドナーが感じた、AIDの社会的イメージとリアル

8.子どもの出自を知る権利について

出自を知る権利とは「①自分がどのようにして 生まれたのか」そして「②自分の遺伝的ルーツは どこにあるのか 」を知る権利のことです。「①自分がどのようにして 生まれたのか」とは、このケースにおいては、精子提供による生殖補助医療で生まれたことを親から子どもが聞く権利を意味します。当院では、この権利を保護するために治療を受ける夫婦は生まれる子どもに真実告知をすることを必須としており、そのための学習やカウンセリングを行なっています。「②自分の遺伝的ルーツは どこにあるのか 」とは、精子提供者を知る権利のことを意味します。②のにおいて当院が提供できる範囲は以下の表の通りです。

AID(人工授精)IVF-D(体外受精)
使用する精子の
提供者(ドナー)登録時期
2022年1月以前2022年2月以降2022年2月以降
精子提供者(ドナー)の匿名性匿名匿名非匿名
精子提供者の周辺情報
(ドナーの身長・体重、簡単な体の特徴、職業、趣味、国籍、血液型、病気・遺伝情報、精子提供する理由)
非開示妊娠後の夫婦に開示妊娠後の夫婦に開示
精子提供者の3親等以内の病歴非開示妊娠後の夫婦に開示妊娠後の夫婦に開示
18歳以上の子どもとドナーの接触不可能不可能可能
子どもの近親婚を回避するための確認不可能可能可能
※当院が提供する精子提供による生殖補助医療において、同一ドナーから生まれた子どもかどうかについて確認が行えます。

9.提供精子による治療のFAQ

一般的質問

精子提供による生殖補助医療について詳しく知りたいです。

精子提供による生殖補助医療のガイドラインに詳細がありますのでご覧ください。

医療提供書類

提供精子による生殖補助医療の医療情報提供書【男性用】【女性用】を記入するのは誰ですか。

これまでの治療を担当された施設の医師に記入を依頼してください。この書類以外には医師の記入が必要な書類はありません。診断書も不要です。複数の施設で治療をした場合は、それぞれの施設の医師に記入を依頼してください。

法的婚姻書類

法的に婚姻を確認できる、発行から3ヵ月以内の公的書類について、日本人同士の夫婦、一方が日本人と外国人の夫婦、外国人同士の夫婦の場合に分けて詳しく教えてください。

(日本人同士の夫婦)
戸籍謄本がこれにあたります。3ヵ月以内のものをご用意ください。行政によっては戸籍謄本を郵送してくれます。

 (日本人と外国人の夫婦)
日本人は戸籍謄本を取り寄せてください。その戸籍謄本に配偶者の名前が入っている場合でも、配偶者の国の書式で配偶者を筆頭とした法的な婚姻を確認できる書類が別途必要です。書類は、本人と配偶者氏名、婚姻日、婚姻を受領した機関名が入っている公的な書類であることが条件です。母国の大使館(領事館)にご確認いただきご用意ください。3ヵ月以内のものをご用意ください。日本語・英語・中国語以外の書類の場合は、翻訳機関にて日本語か英語への翻訳を行ない、原本と一緒にご提出ください。

 (外国人同士の夫婦)
法的な婚姻を確認できる母国の公的書類が必要です。書類には、2人の氏名、婚姻日、婚姻を受領した機関名が入っていることが条件です。母国の大使館(領事館)にご確認いただきご用意ください。2人の母国が同じ場合には書類は1枚で良いです。2人の国が異なる場合は本人を筆頭とした書類をそれぞれ1枚合計2枚ご用意ください。3ヵ月以内のものをご用意ください。日本語・英語・中国語以外の書類の場合は、翻訳機関にて日本語か英語への翻訳を行ない、原本と一緒にご提出ください。

倫理委員会

倫理委員会に申請後、非承認になるご夫婦が約4~6%いるのはなぜですか。

これまでの治療を担当された施設の医師に記入を依頼してください。この書類以外には医師の記入が必要な書類はありません。診断書も不要です。複数の施設で治療をした場合は、それぞれの施設の医師に記入を依頼してください。

倫理委員会に申請後、非承認の場合に費用の返金はありますか。

倫理委員会への申請費用 33,000円(税込)は1,000円の手数料を引いてご返金いたします。ただし、倫理委員会申請までにかかった費用(書籍・冊子購入費用、カウンセリング費用など)は返金できません。

倫理委員会に申請後、非承認の場合は再度申請できますか。

いいえ、提供精子による生殖医療の適用について、夫婦が倫理委員会に行なえる申請は1回のみです。

親族間・きょうだい間、知人による「既知」の精子提供を受けること

親兄弟親戚、知人からの精子提供はできますか。

当院では現在、親族・きょうだい・知人など、精子提供者と被提供者が既知の関係にある「既知提供」は実施しておりません。これは、当事者やその家族間に心理的・社会的な負担が生じやすく、家族関係の複雑化や提供の強要といった課題があるためです。また、生まれる子どもが近しい提供者と関わり続けることで、出自に関する葛藤が深まる可能性もあります。こうした治療には、提供を受ける側・提供する側の双方に対する公平な同意形成支援や、出自告知に向けた継続的な支援など、高度な知見と体制が求められます。当院では、既知提供の実施経験がなく、これらの課題に対応する専門的支援体制を有していないため、現時点では実施しておりません。子どもの福祉を最優先に考え、準備のないままの対応は行わない方針です

子どもの数

提供者1人から誕生する子どもの数は何人ですか。

日本産科婦人科学会では、1人の精子提供者から生まれる子どもの人数は10人を上限としています。当院は1人の精子提供者から子どもが2人誕生した時点で当該提供者の精子凍結を停止します。また、それまでに当該提供者が凍結保存した精子は、生まれる子どもの人数を慎重に把握しながら使用します。

提供精子による生殖補助医療を受ける夫婦が産むことができる子どもの数は何人ですか。

当院では、AIDならびにIVF-Dのいずれかの方法によって1組の夫婦が生める子どもの人数は合計2人までとします。すでに他院の提供精子による生殖補助医療で誕生した子どもがいる場合はその人数は含めません。ただし、第一子が他院の匿名ドナーの場合、当院のIVF-Dで生める子どもの人数は2名ではなく1名までとします。これは、きょうだいにおける非匿名ドナー割合を増やさない為です。きょうだい間でドナーが匿名と非匿名で異なることは難しい問題を含みます。「匿名提供精子で生まれた子のいる家族における次の子どものためのIVF-Dの説明と同意書」と面談を通じて夫婦の準備を確認します。

それぞれの実施までにかかる期間

初診予約がとれるまでどのくらいですか?

はじめてのAID・IVF-D勉強会に参加後、提出書類に不備がなければ、初診予約をとることができる診療予約システムのURLをお知らせしますので、各自でご都合に合わせてご予約いただけます。空きがあれば直近の予約が可能です。

カウンセリング予約はいつすればいいですか?

夫婦の学習や話し合いが終わり、準備ができたと思ったらご予約ください。

倫理委員会で承認されたあとは、はじめてのAIDをするまでの期間はどのくらいですか?

承認後はすぐ次の周期からAIDが可能です。

1回目のAIDを実施してから2回目のAIDを実施するまでの期間はどのくらいですか。

連続周期のAIDが可能です。ただし、今後もし提供精子数が不足する場合には連続周期行なえない場合もあります。そのような場合はメールでご連絡いたします。

IVF-D説明会はどのくらいの頻度で開催しますか?

3~4か月に1回程度実施しています。

一度IVF-Dを実施し、すべての凍結胚を移植しても妊娠が成立しなかった場合や、胚が凍結できなかった場合にはすぐにIVF-Dの採卵周期にはいれますか?

はい、入れます。採卵を希望する月経周期2、3日目にご来院ください。

10.まとめ

無精子症などによる絶対的男性不妊、性別変更によるトランスジェンダー男性など、もう子どもはもてないと思っていた夫婦にとって、AIDやIVF-Dは福音ともいえる治療法です。一方で、AIDなどで生まれてきた子どもに対して、自分がどのようにして生まれてきたのかをうまく伝えなければならないという問題も生じてきます。

しかし、家族というものは必ずしも血縁関係が必要というわけではありません。養子縁組もそうですし、なによりも血縁のない夫婦が家族として暮らしているということがそれを証明しているのではないでしょうか。

はらメディカルクリニックでは、精子提供の生殖補助医療で幸せな家族を作るために、ご夫婦がどのような準備をすればよいのかについて詳しく「はじめてのAID・IVF-D勉強会」にてお伝えしています。この治療について詳しく知りたい方はもちろん、当事者を支えるご家族(ご両親など)も、まずは勉強からはじめてみましょう。

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