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D配信#23:最近多いAIDに関するQAの共有

最近は特定生殖補助医療法に関する情報が増えていますので、子どもが出自を知る権利について見たり聞いたりする機会が増えたと思います。夫婦が子どもの出自を知る権利を保障してあげたいと思っても、AIDは匿名ドナーに限定されているため、それができないという現状に悩んでいる夫婦がいらっしゃいます。

今日は最近多いAIDに関するQAを共有させていただきます。長文のためお時間があるときにお読みください。

▼質問
1:なぜIVF-Dは非匿名ドナーなのにAIDは匿名ドナーなの?
2:AIDも非匿名ドナーにはならないの?
3:AIDの匿名ドナーはどんな人なの?
4:AIDの匿名ドナーも、妊娠後に周辺情報が開示されるのはいつから?
5:なぜAIDを6回(3回)以上実施しないとIVF-Dができないの?
6:子どものことを考えると、匿名ドナーのAIDをしていいのかと悩んでしまう

▼回答
Q1:なぜIVF-Dは非匿名ドナーなのにAIDは匿名ドナーなの?
A1:「匿名」とは、自分の名前や存在を隠して知らせないことを言いますので匿名ドナーは生まれた子どもが将来自分のルーツを知りたいと思っても知ることができないドナーです。一方、「非匿名」とは、隠していない状態を言い、当院における非匿名ドナーとは子どもが18歳以上になった時に接触が可能なドナーのことを指します。

なぜ精子提供の人工授精AIDは匿名ドナーなのかというと、日本産科婦人科学会が「AIDは匿名ドナーしか認めない」とルールを決めているためです。一方、精子提供の体外受精IVF-Dは、日本産科婦人科学会が認めていない治療のため学会ルールは存在しないことから、当院は独自のガイドラインで非匿名ドナーを採用しています。

Q2:AIDも非匿名ドナーにはならないの?
A2:IVF-Dが非匿名ドナーであるなら、AIDも非匿名ドナーにできると思われるかもしれませんが、実際そうするためには多くの決定と長い時間がかかります。IVF-Dは当院がはじめた医療のため、ゼロベースから設計し準備ができました。しかし、AIDは日本で75年間続いてきた長い歴史があり、問題は未解決のままですが、制度だけはしっかり出来上がってしまっています。ここまで出来上がった制度を変えていくためには多方面にわたる影響の検討が必要であり、法整備以外の方法で変えていくことは出来ない状況になっています。

Q3:AIDの匿名ドナーはどんな人なの?
A3:当院は2022年2月から、精子ドナーの条件を変更しましたが、現在のAIDは、まだ2022年1月以前に提供された精子を使用しています。そのため、匿名ドナーは医学部の学生です。2022年1月以前のドナーの条件についてはこちらをご覧ください。https://www.haramedical.or.jp/content/artificial/000095-2#aid

Q4:AIDの匿名ドナーも、妊娠後に精子提供者の周辺情報が開示されるのはいつから?
A4:精子提供者の周辺情報とは、ドナーを特定する情報ではなく、ドナーがどのような人なのかという情報(ドナーが記入した「身長・体重・簡単な体の特徴、職業、趣味、国籍、血液型、病気・遺伝情報、精子を提供して下さる理由」情報)のことです。現在AIDに使用している匿名ドナー精子は2022年1月以前の提供のため、ドナーは医学部の学生という情報はありますが、「身長・体重・簡単な体の特徴、職業、趣味、国籍、血液型、病気・遺伝情報、精子を提供して下さる理由」という周辺情報はとっていません。

精子提供者の周辺情報を妊娠後の夫婦に開示するためには、AIDに使用する提供精子を2022年2月以降分に切り替える必要があります。では、それはいつからなのか?という質問ですが、今後成立予定の特定生殖補助医療法が施行される時期が関係するため現時点ではまだお伝えできません。わかり次第お知らせいたします。

Q5:なぜAIDを6回(卵管因子・低AMH・40歳以上で3回)以上実施しないとIVF-Dができないの?
A5:精子提供の体外受精IVF-Dは、厚生労働省と日本産科婦人科学会の両方で認められていないためです。当院は認められていないIVF-Dを独自のガイドラインに基づき行うために、IVF-Dの適用は「人工授精では授からない医学的理由」に限定する必要がありました。人工授精の医学的有効性は6回という回数が妥当でした。日本生殖医学会も人工授精が有効な目安を6回までとしています。

なぜ、厚生労働省と日本産科婦人科学会はIVF-Dを認めていないかというと、AIDの問題が表面化した2001年に、問題を解決するためには法整備が必要との見解から、法整備されるまではAID以外の精子提供の治療は認めないという通達が厚生労働省から日本産科婦人科学会に対して行われたためです。しかし、それから22年の歳月が経過し、日本産科婦人科学会は先日、厚生労働省にIVF-Dを認めるように強く抗議しました。しかし、厚生労働省は、議論の場は既に立法府に移っているため許可はできないとの回答でした。そこで、日本産科婦人科学会は、第23回生殖補助医療の在り方を考える議員連盟総会で、「今日この場で精子提供の体外受精を認めるべきだ」と強く要求しました。しかし、議連の回答もまたこの場では決められないとのことでした。

立法府がIVF-Dを認めれば、日本産科婦人科学会はIVF-Dを認めると表明しています。そうすれば、一律の回数規定はなくなり、個々の状況に合わせたIVF-Dの適用が可能になる見込みです。

Q6:子どものことを考えると、匿名ドナーのAIDをしていいのかと悩んでしまう。
A6:この相談が外来でもカウンセリングでも電話でも増えています。お気持ちはとてもよくわかります。当院は次のように考えています。

■当院はAIDで生まれた子どもに必要なのは自己肯定感だと考えています。自分を愛し、他人を愛し、自分の存在に自信をもつ気持ちは、持って生まれた環境(ドナーが匿名か非匿名か)よりも、生まれた後の親との関わりの中で作られていくと考えています。幼少期からテリングをうけて育った子どもの幸福度が高いことは海外の多くの研究で示されています。

■AIDは匿名ドナーという制限があるのは夫婦にはどうしようもないことです。その制限の中で、夫婦は、子どもにとって最善の利益は何なのかを考えた結果、当院のAIDを選んでくださったのではないでしょうか。当院のAIDドナーは精液検査が良好で、感染症検査が陰性で既往歴すらない人を選定しています。病歴の遺伝検討、面談、心理検査もしています。可能な限りの遺伝リスクを考慮しています。また、夫婦がAIDをするまでには多くの学習に取り組み、カウンセリングを行い、倫理委員会で承認を得ています。このような夫婦の選択や努力こそが、子どもが幸せになるための最善の方法だと思います。ご夫婦は子どもに胸をはってこの選択をしたことを伝えてほしいと思います。

■現在の欧州は、精子提供を非匿名ドナーに限定している国が多いですが、以前は匿名ドナーであったため、成人した精子提供で生まれた人のドナーは匿名が多いです。しかし、これまで読んだ匿名ドナーから生まれた子どもに関する文献の中で、幼少期から告知をされた子どもで、自分を不幸だとか、親を恨んでいるというような感情を示した文献は1つも目にしたことがありません。精子提供で生まれたことを「普通(良い意味で)」「特別」「おもしろい(良い意味で)」と考えているという内容でした。

■イギリスDCNのレターに、精子提供で生まれた子どもは、ドナーに対して特に何も思わない(知りたいとは思わない)という人と、ドナーを知りたいという人の両方がいるという記事がありました。ドナーを知りたいという人の記事にはこう書いてありました。「ママは絵がすごく下手なのに私は絵が好きだし、時間があったらアートに触れていたい。そんな自分が好きだからこの特徴がどこからきているのかが知りたい」と。この人は、ドナーと自分との遺伝的な共有点を確かめたいのだと思います。その点では、現在のAIDのドナーは医学部の学生であったという情報を子どもに伝えられるのは遺伝的な特徴にも関係する有効な情報だと思います。医学部の学生はほとんどが医師になります。「あなたが生まれるのを助けてくれた人は今はお医者さんになっていると思うよ」と話すことができます。医師という職業は小さな子どもにも想像がしやすいので、子どもは自分の中に共通点を見つけることができるのではないでしょうか。

AIDに進むかどうか、AIDを続けるかどうかは、夫婦で話し合って出した答えが正解です。話し合う際に、匿名ドナーのAIDで生まれた子どもをテリングしながら育てているご夫婦や、テリングされながら育った子どもの話を聞いてみるのもよいかもしれません。

AIDの当事者支援団体は3つあります。
▼すまいる親の会
https://www.sumailoyanokai.com/

▼AID当事者支援会
https://aid-toujisha.com/

▼ふぁみいろネットワーク
https://famiiro-network.org/

以上です。最後までお読みいただきありがとうございます。不安なことがありましたら、外来でも、カウンセリングでも、受付への電話でもよいのでお話ください。

当院は今、9月か10月に開催する「AIDとIVF-Dで生まれた家族のための:当事者家族の会」の準備をしています。この会は楽しい会にしよう!弱音を吐ける会にしよう!子どもたちが何でも話せて質問できる場にしよう!と計画しています。日時と内容が決まりましたらご案内します。

(2023年5月7日)

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