不妊症・男性不妊・人工授精・体外受精・胚移植・AID・精子バンク等の不妊治療・不妊専門クリニック。

精子提供による体外受精までの経緯

不妊症の検査・治療

精子提供による人工授精(AID)の実績

当院は1997年、日本産科婦人科学会に精子提供の人工授精実施施設として登録し精子提供による人工授精(AID)を開始しました。当院はAIDを年間約750周期から800周期実施しており、現在日本におけるAIDの3~4割を当院で実施しています。AIDの国内実施件数は、ドナー精子不足を理由に2018年から大きく減少していますが、当院はドナー精子の供給が安定しておりドナー精子不足はありません。

精子提供による人工授精(AID)の問題点

精子提供による人工授精(AID)の歴史は古く、1948年に初めて慶応義塾大学病院で実施されました。当時は戦後の混乱期。医師は目の前の困っている夫婦を助けることが精一杯で、生まれる子どもの出自を知る権利に対する仕組み作りはせずに治療だけが先行した背景があります。それから今日まで、国内でAIDによって生まれた子どもの数は推計で1万~2万人といわれていますが、正確な数は国も日本産科婦人科学会も把握できていません。2000年を過ぎたころから、AIDにおけるさまざまな問題が取り上げられるようになりました。問題点を大別すると以下の6点です。

  1. AIDで生まれた子どもが、自分が産まれた方法がAIDであることを親から告知してもらえない問題
  2. AIDで生まれた子どもが、精子提供者が誰なのかを知ることができない「出自を知る権利がない」問題
  3. AIDで生まれた子ども、AIDをした夫婦、精子ドナーの情報が長期間適切に保存されていない問題
  4. AIDで生まれた子どもは治療をした夫婦の子供であることが法的に保障されていない問題(精子ドナーが親権者になりえる問題)
  5. 精子提供による医療は人工授精(AID)に限定され、何度不成功を繰り返しても体外受精をすることはできない問題
  6. AIDを行える対象者の条件は法律婚の夫婦のみ。事実婚、同性カップル、選択的シングルマザーを加えるかどうかという問題

2005年頃には、AIDで生まれたことを親から告知されなかった子どもたちから苦みの声が次々に上がりはじめました。この声は2014年出版の「AIDで生まれるということ~精子提供で生まれた子どもたちの声~萬書房」に詳しく書かれています。さて、AIDの問題点については国も認識し、2001年厚生科学審議会(生殖補助医療部会)が発足しました。厚生科学審議会(生殖補助医療部会)のメンバーは日本産科婦人科学会の理事長の他、臨床医の専門家、社会福祉の専門家、心理の専門家、法律の専門家などの第一線の有識者で組織されていました。精子提供だけでなく卵子についても法制化が望ましいという見解のもと、厚生科学審議会(生殖補助医療部会)は3年間で27回の会議をもち、 2003年4月28日厚生科学審議会(生殖補助医療部会)の結論として報告書をまとめました。
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/04/s0428-5.html
厚生科学審議会(生殖補助医療部会)の報告書では、AIDの問題点である上記①~⑥に対して一定の答えを出しました。①~③の子どもの権利を保障し、④は治療を行った夫婦が法的な親であること、⑤は体外受精も可能とする、⑥は法律婚の夫婦のみとしました。
また、厚生労働省母子保健課はAIDの問題点である①~⑥が法制化されるまでは、精子提供による治療は人工授精(AID)に限定するという通達を日本産科婦人科学会など各学会に対して行いました。そのため、日本産科婦人科学会は今日まで出自を知る権利の保証や、精子提供による体外受精を認めていません。しかし、日本産科婦人科学会は2001年第1回厚生科学審議会(生殖補助医療部会)において提供配偶子の体外受精は法制化を条件に賛成の立場を表明していますので、学会も法制化を待ち続けた立場にあると考えられます。

その後、法整化されぬまま停滞の17年間

2003年、厚生科学審議会(生殖補助医療部会)は報告書を立法府に提出しました。しかし、その後立法府はこれを17年間法制化することができませんでした。 AID実施施設である当院は、「子どもの出自を知る権利への配慮や保証は必要不可欠であること」を認識しつつ、「AIDを20回・40回・60回と繰り返してもなお体外受精をすることが許されず精神的にも経済的にも追い詰められていく夫婦」と日々向き合う中で、どうにかしてこの問題点を現場で改善できないものかと長年悩んできました。そのような中で、当院は2013年にJISARTに加盟し、JISARTが行っていた親族間の提供配偶子による体外受精のガイドラインを知ることになります。それは、当事者の権利と福祉を尊重した素晴らしい内容でした。JISARTは親族間の提供精子/卵子ですが、提供者を親族から得られない人や親族間の提供は避けたいと思う人のために、精子バンクを利用した精子提供による体外受精をはできないものかと考えるようになり、2017年12月、当院はJISARTを退会し、精子バンク利用による体外受精の準備を開始しました。しかし、当時はまだ生殖補助医療で出生した子の親子関係を明確にする法律はありませんでしたので、どんなに契約書類を充足させても、生まれる子どもと精子ドナーの権利を守りきることはできないという結論になりました。そのため、当院は精子バンク利用による体外受精の準備をここで一度中断しました。その後、2020年12月、生殖補助医療で出生した子の親子関係を明確にする民法の特例法(「生殖補助医療の提供等及びこれにより出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する法律」)が国会で成立しました。この法律化により、AIDで生まれた子どもと治療をした夫婦は法的な親子関係になり、同時に精子ドナーに親権はないことが保証されました。しかし、法制化されたのは親子関係だけ、他の問題点については2年を目途(2022年12月まで)に検討するということになりました。

当院がいま精子提供による体外受精を実施する理由

2001年1月17日付厚生労働省母子保健課課長通達にて精子提供による治療が人工授精(AID)に限定されてから21年以上が経過しました。しかしこの間、精子提供による体外受精を認める法制化は今日現在において国会に法案提出すらされていないのが現実です。無精子症のご夫婦は現在においても妊娠成功率の高い非配偶者間体外受精をうけることが出来ず、その約1/10の成功率となる非配偶者間人工授精AIDを20回、30回と繰り返しています。費用はもちろん、失われる時間や精神的な負荷は多大なものがあります。また、これに耐えかねた患者は、甚大なリスクがあると知りながらもSNSでの精子取引や海外での非配偶者間体外受精という選択をしています。当院は法制化さずに残っている問題点は当院独自の方法で保障する覚悟をもち、体外受精を実施することとします。精子提供による体外受精は当院独自の治療となります。ガイドラインは「精子提供による生殖補助医療のガイドライン」です。

法制化の前に精子提供による体外受精を実施するデメリット

法制化を待たずに精子提供による体外受精を選択する場合には十分に検討しなければいけないデメリットがあります。

  1. 最大のデメリットは、当院が閉院する可能性があるということ。その時、夫婦・提供者・子どもの情報を、どの機関にも引き継げないことも想定されます。
  2. 近親婚の確認は当院の知りえる範囲内でしか行えないということ。
  3. 今後、国による公的管理機関が成立した場合、成立以前に行った精子提供による体外受精については、その情報管理を国は行わない可能性があります。

当院は夫婦にこのデメリットを説明し、その上で当院の方針に同意する夫婦にのみ精子提供による体外受精を実施します。

当院の精子提供による体外受精の特徴

精子提供による生殖補助医療を提供する当院が目指すことはとてもシンプルです。それは、治療を受ける夫婦・生まれる子ども・ドナーが幸せになるための医療をすることです。そのためには、子どもが幸せになれる仕組みを整える事が大切だと考えています。

生まれる子どもが幸せになるために最低限必要なことは「自己肯定感」をもてるような仕組みを整えることです。当院は、子どもたちが自己肯定感をもつために、1.親との良好な持続的関係があり、2.自己を形成するルーツの認識があり、3.周囲の理解が必要と考えており、そのような仕組みを整えています。

1.子どもと親との良好な持続的関係

親との良好な持続的関係をつくるために、親子の間に嘘を作らないようにするために、夫婦は子どもが6歳になるまでに告知することを当院との約束事としています。しかし、血の繋がりを重んじる文化がある日本において、精子提供という家族のあり方はほとんど知られておらず、それはこの治療を選択する当事者夫婦にとっても同じことです。初診時は何もわからない夫婦が徐々に子どもにとって大切なことを体得し、子どもに告知できるような継続的な支援をしています。

2.子どもの自己を形成するツールの認識
当院の精子提供による体外受精は子どもの出自を知る権利を保障しています。

子どもが、「ドナーはどのような人なのか」を知ることができる仕組みを整えています。ドナーがどのような人なのかという情報として、身長・体重・体の特徴・人種的背景・趣味・職業・精子を提供する理由という内容をドナーに記入してもらい、夫婦が妊娠し卒業するときにお渡しします。他に、ドナーの健康に関する情報もこの時にお渡しします。夫婦は子育ての中でドナーがどのような人なのかという情報を子どもにつたえていくことができます。子どもは、精子を提供してくれた人は自分の誕生を応援してくれたことを知れます。思春期になり自分の外見が気になるとき、ドナーの情報があることで安心できることがあります。ドナーの情報は、子どもの人生の選択枠を広げます。

また、子どもが18歳以上になり、「もっとドナーのことを知りたい」と思った時には、ドナーと接触することができます。進学、就職、結婚などの人生の選択を迫られた時、他の子と同じように自分のルーツの認識を頼りに、将来を切り開いていく上でドナーをもっと知りたいと思うことは大切なことです。接触とは、メール・電話・手紙・直接会うのいずれかにドナーが対応してくれることです。接触の際は当院が仲介します。当院の精子バンクに登録しているドナーは7割が非匿名(子どもが18歳以上になったとき子どもとの接触OK)です。

3.周囲の理解

精子提供による生殖補助医療を開始する前に、夫婦は心理カウンセラーと、夫婦の周囲の人たちとのサポート体制に関するお話をします。夫婦には「ソーシャルサポートマップ」を記入してもらい、どの範囲にこの治療のことを話し、持続的に相談できる関係を作っていくのかなどを事前に想定します。

日本の社会においては、精子提供による医療が社会全体の理解を得るまでにはまだ時間がかかります。しかし、以前はあまり表立って語られなかったことが現在では普通のものとなっている例はたくさんありますので多様な家族を受容できる社会はきっとくると信じています。多様な家族に対して、「そういう場合もあるよね」という社会の理解が少しでも早くくるように当院は社会的な活動も行っています。

精子提供による体外受精実施までの経緯

2022年1月14日 日本初となる、精子バンク利用の、非匿名精子による体外受精を開始することを発表[PDF
2022年1月14日 日本産科婦人科学会に、当院における精子提供による生殖補助医療の実施要項改変のご報告書面を送付[PDF
2022年1月25日 日本産科婦人科学会より、上記の当院報告をうけて通知を受領。精子提供による体外受精に対して複数の指摘をいただく[PDF
2022年8月29日 提供配偶子の生殖補助医療法案の要望を次の国会議員へ実施[PDF
閣府特命担当大臣(少子化対策担当)小倉 將信様/自由民主党:衛藤晟一様、小渕優子様、塩崎彰久様、柴山昌彦様、新谷正義様、高鳥修一様、田村憲久様、橋本岳様、福岡資麿様、古川俊治様、丸川珠代様、宮﨑政久様、山下貴司様(2月に片山さつき様、高市 早苗様、和田政宗様に要望済み)/公明党:秋野公造様/立憲民主党:石橋通宏様、塩村文夏様/日本維新の会:梅村聡様/国民民主党:伊藤孝恵様
2022年9月2日 日本産科婦人科学会に、再度ご報告の書面「2022年 1 月 25 日 、貴会御通達へのご回答」を送付[PDF
2022年9月15日 特定生殖補助医療法案に関して、法案PTリーダーの古川 俊治議員と面談
2022年9月28日 精子提供による体外受精の第一号の採卵を実施。患者は、妻40歳、夫38歳、AID回数66回(当院36回、他院30回)実施するも妊娠なし。

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